「生まれてすみません」――。資産家の息子・葉蔵(生田斗真)は、過剰な自意識から他人となじめず、自身の存在意義を求めながら、酒や女に溺れていく。破滅に向かってさまよう葉蔵がたどりついた先には、一体何が待ち受けているのか? 太宰治生誕100周年を記念し、いまなおロングセラーとなっている彼の最高傑作を映画化。TVドラマへの出演が続く若手人気俳優、生田斗真が映画初出演にして主演を飾る。
『人間失格』作品情報 | cinemacafe.net
TOHOシネマズ秋田にて。
超有名小説の映画化なのですが、これは原作未読/既読でかなり評価がわかれそうな作品でした。
原作をまったく知らない人にとっては、抑揚をおさえて淡々と紡がれる物語を静謐で美しい映像で味わうことができる魅力あふれる作品であり、穏やか過ぎて多少退屈に感じる人もいるかも知れませんが、どうしようもないダメ人間のいきざまをじっくりと観て楽しむことができます。
逆に原作を読んでそれなりに主人公の心情に理解を示した人にとっては、この映画が正しく原作の意図を汲み取っていないことにイライラさせられるはずです。原作では他者や世間と折り合いをつけるために道化として生きてきたという事実と、葉蔵は自身がとっていたその態度につよい嫌悪をおぼえていたことを淡々と語り、いかに自分が生きにくい人間であったのかを示すものでした。その内容は決して明るいものではなく、読み勧めるのも辛くなるほど真に迫ったものでしたが、この映画の中で描かれているのはこの原作で紹介されるエピソードをただ追うだけのものであり、とてもまっとうな映像化とは言えません。この作品における葉蔵という人物の描き方には原作ありきで考えると、不満を感じてしまいます。個々のシーンやエピソードの再現性はよかったと思いますが、その組み立て方や掘り下げ方にはもう少し工夫の余地があったんじゃないかと思います。
あと原作未読の方が楽しめると書きましたが、作品内での説明が足りなくて原作を知らないと意図するところがつかみにくい演出もあったのでその点もちょっと残念でした*1。なぜそうなってしまったのかその理由について考えてみたのですが、葉蔵の人間性に踏み込むことを極端に避けていたからじゃないかと思うんですよねえ。
結局表層的な人物物描写しかできなかったことがこの作品のもっとも大きな残念ポイントです。
と、ちょっとネガティブな感想に偏ってしまいましたが、冒頭に書いたとおり、原作ありきで考えなければとてもよい作品です。
特に映画で追加されたと(たぶん)思うのですが、中原中也が出てくるシーンやエピソードはどれも記憶に残る美しさをたたえていて印象的でした。中原中也が森田君というのはちょっとかっこよすぎる、というか顔立ちがあまりに現代的過ぎるような気もするのですが、そのギャップも含めてとてもよいスパイスになっていました。
原作につよい思い入れがある人にはお勧め出来ませんが、そうでない人にはおすすめです。
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