「天国はまだ遠く」見たよ

天国はまだ遠く [DVD]

天国はまだ遠く [DVD]

仕事も恋愛も人間関係も下手…。都会生活に疲れ果て、自殺願望を持つ23歳OL・千鶴(加藤ローサ)は、ふらりと訪れた山奥の民宿で睡眠薬自殺を図るが、失敗。やがて民宿の主人・田村(徳井義実)との田舎生活、大自然や村人たちの温かい優しさに、徐々に癒されながら生きる元気を取り戻していく――。人気作家・瀬尾まいこの同名小説を原作に、不器用なひとりの女性の“心の旅”を描いた物語。

『天国はまだ遠く』作品情報 | cinemacafe.net

予告を観て感じていたとおり、原作の空気を非常によく再現しているとてもよい作品でした。キャスティングや撮影場所の選択も含めて小説の映像化としてはかなり成功した部類にはいると思います。毎日の生活に疲れた千鶴が死のうと出かけた旅先で日々癒される様子や、千鶴がなぜ民宿をあとにしてもどろうと考えたのかがとても忠実にそして丁寧に描かれていて、原作が伝えたかったであろうことがすごくよく伝わってきました。



ひとつだけ映像化に伴った変更で残念に感じた点があって、それは田村さんにいろいろと過去を背負わせてしまった点です。
原作好きなわたしから見ても、映像化するにあたって一番難しいだろうなと思っていたのはとらえどころのない田村という人物をどう描くのかという点でした。ですので何かしらの過去を描かないことにはキャラクターとして成り立ちにくかったのだろうというのはよくわかるのですが、それにしたってあんな重い枷を与える必要があったのかと思うとちょっと違うんじゃないかなと思うのです。お気楽に生きているように見えて本質を鋭く突いてくる田村という人物像にはあれほどの悲しい過去は合わないような気がしました。


とは言え、本編に大きく影響を与えるものでもないので、アナザーストーリーと考えればいいだけなのですが、その他の点が原作をとてもよく再現していたので、いちばんおおきな変更点であるここがどうしても目立って気になってしまいました。原作を否定するようなものではないので、単なる好みの範疇に収まることかも知れませんが、わたしはすごく気になってしまいました。


DVDを見終わったときに、ふと自分の居場所ってなんだろうなと考えこんでしまいました。


千鶴は民宿があるこの場所は自分の居場所ではないという直感からくる確信がありつつも、でもこのまま民宿に残りたいという感情からくる欲求も同時にもっていました。そして"ここに残る"という選択肢がどうしても捨てきれず、この選択肢を選ぶ口実というか後押しが欲しくて田村に「わたしがいなくなったら寂しいですか」という問いをぶつけるのです。そしてそんな彼女の考えていることを感じとった田村は、遠まわしに、けれどはっきりとその思いを断ち切る答えを返すのですが、この一連のやり取りがすごくいいんです。
たった3週間一緒にいただけとは思えないほど言いたいことを言い合えるくせに、でも大事なことにはストレートに踏み込めない距離感がとても伝わってきてものすごくグッときます。
二人が互いに別れを告げて頭を下げるシーンはこの作品いちばんの見所といってもよいくらい好きないシーンです。


で、話がずれちゃったのですが、自分の居場所なんてのは誰かに選んでもらったり他人に背中をおしてもらって決めるようなものじゃないというのはそのとおりだし、さらに自分のいる場所が本当に私自身の居場所なのかどうかということも一度考え直してみるべきなのかも知れないなと思ったのでした。居場所探しというと、何となく「自分探し」みたいな途方もないものになってしまいそうですが、そこまで大層なことではなくて自分のやりたいこととやるべきことが現在おかれている状況と正しく一致しているのかどうか、もしくは一致しないまでも方向があっているのかどうかについては一度確認する時間をもった方がいい時期にきてるんじゃないかなと。そんなことを思ったのでした。


ここは本当に自分が居たい場所なのかどうか。一度ちゃんと考えてみますか。


(参考リンク)

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