昔からわたしには「ある悪癖」があります。
例えばわたしが高校生の頃。
「塩狩峠」を読んで、いたくその内容に感銘を受けた私は著者の三浦綾子さんの本のうち当時文庫で出ていた作品すべてを買いあさって読んだことがあります。同時期には「海と毒薬」をきっかけに遠藤周作さんにも興味をもち、同じようにすべての文庫を買っては毎日読んでいました。なかなか手が出ないハードカバーや本屋で注文しなければ手に入らないような本もあったので、そちらは学校の図書館なども探し回って両著者の本をすべて読みきったのです。
さらにこれも同時期だと思うのですが、「青い車」を聴いて以来スピッツがものすごく好きになってしまい、当時出ていたCDを全部買って聴いたことがあります。その時まではほとんどアルバイトなどしたことがなかったのですが、あまりにCDが欲しくかったわたしは短期のアルバイトをやって全部手に入れたのです。
その頃はハチミツさえも出ていない時でしたので出ているアルバムはミニアルバムを含めても4,5枚程度だったと思うのですが、彼らが青い車を出すに至るまでの全ての作品を耳に出来たことでさらにスピッツが好きになったことはとてもよく覚えています。
他にも例を挙げるときりが無い上に、例えばセガサターンと64のゲームを全部買いそろえようとした話など、改めて話すには恥ずかし過ぎるものもあるのですべてを紹介するわけにはいかないのですが、とにかくわたしは何かを強烈に好きになったときには必ずその「好きになったもの」に関わるすべてに触れなければ気が済まない性質だったということをここに告白しておきます。
そして「だった」と過去形で書いておいてなんですが、当時から10年以上経った今でもこの性格はまったく変わっていなくて、あの頃よりも経済力がある分、今の方がむしろ性質が悪いようにも思います。宇都宮市で「絶対に無駄なお金を持たせちゃいけない人ランキング」なんて作ったとしたら、まちがいなく上位に食い込む自信があります。
こんな経験を繰り返して学んだのは、「知らない方がいいこともある」ということ。
こんなことはあらためて書くほどのことでもないというのは重々承知していますが本当にそうなんです。大好きな人/モノの過去をいろいろとほじくり返してみたら、どうも好きじゃなくなってしまうなんてことも少なくありません。どれだけ好きだと思っていても、その全てを知っても尚、大好きを継続出来るモノというのかなり稀だといえます。
さて。最近とても大好きな作家さんがいまして、それは恩田陸さんです。
もとをたどれば「夜のピクニック」がきっかけになるのでしょうが、あれを読んで以降、恩田さんの書く文章が好きで好きでたまらず、ほぼ毎日彼女の本を読んで過ごしています。
会社に行くときも映画館に行くときも買い物に行くときも、必ずバッグには一冊以上の恩田さんの本を入れていますし、自宅にもまだ読んでいない本が必ず一冊はストックされています。いつでもどこでも彼女の文章に触れる準備万端で毎日を過ごしているわけです。
そこまで彼女の文章が好きだと言いながら、実は著者の小説以外の文章を今まで読んだことがありません。
もちろんその機会がなかったというのもひとつの理由ですが、一番大きな理由は「いつものようなひとつの閉じた世界を描いた物語ではない彼女の文章を読んで著者に興味がなくなってしまうこと」がとても怖いと感じていたのです。
- 作者: 恩田陸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/05/28
- メディア: 文庫
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本好きが嵩じて作家となった著者は、これまでどのような作品を愛読してきたのか? ミステリー、ファンタジー、ホラー、SF、少女漫画、日本文学……あらゆるジャンルを越境する読書の秘密に迫る。さらに偏愛する料理、食べ物、映画、音楽にまつわる話、転校が多かった少女時代の思い出などデビューから14年間の全エッセイを収録。本に愛され、本を愛する作家の世界を一望する解体全書。
恩田陸 『小説以外』 | 新潮社
本書は恩田さんが今までに書いたエッセイやあとがきをまとめたものですが、著者の過ごしている日常やこれまでの人生経験、そして日ごろの読書生活などが盛り込まれていて非常におもしろかったです。著者が常日頃どのような本を読んでいるのか、とか、普段どういうものを見てどんなことを考えているのかという、本当にささやかなことを知るだけでこんなに楽しく読めるとは予想外でした。
普段文庫には付箋を貼らないのですが、この本だけは読み返したい場所に付箋をたくさん貼りながら読みました。
読む前のわたしの心配などまったくの杞憂としか言いようがなく、読む前以上に著者に対する興味がわいてきました。