三味線を弾きながら唄う、盲目の旅芸人――市＜いち＞（綾瀬はるか）。人と関わることを嫌う市は、自分と同じ盲目の女が男たちに脅されていても、素知らぬ顔でいた。男たちが今度は市を手にかけようとしたとき、一人の侍・藤平十馬＜ふじひら・とうま＞（大沢たかお）が止めに入った。だが、その男は刀を抜くことが出来ない。市は自ら仕込み杖から剣を抜き、男たちを容赦なく斬り捨てた。宿場町にたどり着いた十馬は、賭場からの帰り道、町を荒らす万鬼＜ばんき＞（中村獅童）の手下たちに囲まれるが刀を抜けず、カタをつけたのは市だった。そして十馬は、自分が刀を抜けない理由を市に打ち明ける。やがてふたりは、反発しながらも次第に惹かれ合う。しかし、市にとって心休まる時は、長くは続かなかった…。勝新太郎の代表作『座頭市』に負けずをとらない女性版『座頭市』が誕生。
『ICHI』作品情報 | cinemacafe.net
TOHOシネマズ宇都宮にて。
座頭市が女性だったら...というモチーフはおもしろいなと思いつつ、でも主演が綾瀬はるかだからきっと彼女のかわいさ重視な作品なのだろうと思っていたらこれが完全に予想が外れてしまいました。すごくよかったです。
完全ではないために生まれる完全性というのがこの作品を観て感じた一番大きな感想です。
何のことかというと、目が見えないという身体的な欠点が市の美しさのもっとも原点になっていると感じたのです。市の魅力は盲目であるが故に生まれた美しさだとわたしは感じました。当然綾瀬はるか自身の持つ美しさそのものもあるとは思いますが、それでも目の見えないこと、つまりは他の人間が持っている能力を有していない不完全さというものが逆に市の美しさを完全なものとして作り上げていると実感しました。
不完全であることが美しさを生んでいる例としては、ミロのヴィーナスがあります。
ミロのヴィーナスには両腕がありませんが、それでも世界でもっとも美しい彫刻として名を馳せています。この両腕がないことについてはこれを欠点と捕らえるのではなく、「両腕が欠けていることで観るものに全体を想像させることが出来る」と美しさを生む源泉であると述べる人もいます。初めてこの意見を聞いたときにはとても驚いたのですが、今ではわたしもその意見に心から同意しています。
話を作品に戻して、市の美しさというのは本当に圧倒的でわたしはもう終始彼女に釘付けでした。
目が見えないことで外部との接し方に苦しむ姿や戦いで傷つき傷つけられる姿など、とにもかくにも彼女の立ち振る舞いのすべてが美しかった。なんでこんな些細なところにまで美しいと感じてしまうのか、わたしはもしかしたら変態ではないかという恥ずかしさや申し訳なさみたいな感情を感じながらも市という女性に惹かれる気持ちは抑えきれなくて本当にびっくりしました。
# 帰りは頭痛がひどくてパンフレットを買ってこなかったのですが、あとで買いに行こうと思っています
あとね、竹内力がかっこよすぎます。先週見た「釣りバカ」にも出てて、こんなコメディの作品なのにすげーオーラ出てるなーと思ったけれど、あの作品とはまた別次元のかっこよさがにじみ出ててもうものすごくよかったです。万鬼の手下などではなく、ぜひ万鬼として活躍して欲しかったと思うほど圧倒的に強烈なカリスマ性を感じました。憧れちゃうなあー...。
対して残念だったのは、藤平役が大沢たかおだったこと。
大沢の演技がよくなかったというのではなく配役そのものが間違ってるよなーとわたしは思うわけです。理由は大きく二つあって、ひとつは彼の容姿やたたずまいが時代劇であるこの作品に完璧になじんでいないという点。つまり作品から浮いていました。これはもう彼のもつキャラクターというものがあるのでしょうがないのですが、どうしても現代的で穏やかな容姿が、作品全体がもつ緊張感を薄めてしまってるんですよね。
そしてもうひとつは目の見えない市が惹かれる相手としてはもっと明確な不細工がよかったからです。外見じゃないものに惹かれたことをもっと明確に表現してくれた方がこの作品全体により強い説得力を持たせられたと思うし、その点でいうと大沢は雰囲気イケメンなので微妙なんですよね...。
他のキャスティングはよかっただけに、彼のイマイチ感があまりに強烈過ぎてとても違和感を感じました。
作品全体の感想は最初に書いたとおり、とてもよかったです。
市の殺陣のシーンはとても迫力のあるシーンとしてうまく描かれていたし、斬ったあとに市が背中を向けて刀をしまいこむ姿は座頭市のそれを模倣したものだと思いますが、綾瀬はるかが同じことをやるともうこれがすごくかわいいのです。変態の言うことなので話半分に聞いてもらいたいのですが、この姿を見るためだったらわたしが斬られてもいいと思えるほどとてもよかったし、あのシーンで一時停止するためだけにDVDを買おうと思います。
綾瀬はるか好きじゃなくてもぜひぜひ。
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