「光市事件の死者は1.5人」「元少年が殺されれば遺族は幸せ」などと青山学院大学国際政治経済学部の瀬尾佳美准教授がブログで発言していた問題で、同大が特別委員会を急きょ設置し、瀬尾准教授を処分する方針であることがわかった。瀬尾准教授の発言をめぐっては、インターネット上で大きな批判を浴びており、同大に抗議が殺到。学長や准教授が謝罪する事態にまで発展していた。
「光市事件の死者は1.5人」 問題発言准教授を青学が処分へ : J-CASTニュース
原因となったブログはパスワード制限がかけられており読めませんが、魚拓や引用は山のように残っているのでそれらは見ることが出来ます。たしかにひどい内容ですが、これがもし匿名で書かれたものであればここまで燃え上がる事はなかったと思われます。もっというならば、大学という教育機関*1で教鞭を取っていたからこその炎上だと言えます。
何を言ったのかという部分はもちろん大事ですが、それに加えて誰が言ったのか?ということをトレース出来るように「実名」で発言することを推奨する意見があります。これはインターネットの仕組み上、匿名で発信が規定値であるために、そうではなくて実名での発信をしましょうという事を啓蒙しているのですが、なぜそこまで実名にこだわるのかいつも分かりませんでした。
ただ、こういった実名原理主義者の発言を見ていてひしひしと感じたのは、「責任のもてない発言は許せない」という感覚でした。これだけはすごくよく伝わってきました。
たしかに自分は実名で情報を発信しているのに、不特定多数からバッシングされ、挙句、それに対して何も反撃出来ないというのは非常に口惜しいですし精神衛生上よくありません。もっとはっきり書いてしまうとむかつくし怖いのだと思います。だいぶ前に「ネットイナゴ」という言葉で表現されたりもしましたが、まさに大量発生したイナゴのような匿名集団が憎くて憎くてしょうがないのです。
ただ、じゃあ、全員実名になれば解決するのかというとそんなことは無くて、例えば実名がばれたところで痛くもかゆくも無い人もいるわけですし、犯罪にならないような煽りなどは結局なくなりません。
もちろんある程度の抑止効果は期待出来そうですが、気にしない人は気にしませんし、何よりも技術的な問題として個人を100%特定する事は不可能です。あくまで自己申告が主となると思われます。その程度の実名にどのくらいの効果があるのか甚だ疑問です。
では実名での情報発信を要求する人が求めるものは何なのか?
それについてジャーナリストの佐々木俊尚さんが非常にうまくまとめていました。
つまり彼らが求めているのは「所属」であって、実名ではないのだ。実名主義者ではなく、所属主義者なのだ。「実名主義」「実名が大切」といった美辞麗句の化けの皮を一枚剥げば、その下には「おまえの会社を教えろ。上司にチクってやる」という恫喝が潜んでいる。
「実名」と「特定」は別のものだ:佐々木俊尚 ジャーナリストの視点 - CNET Japan
つまり、相手の所属を知ることでその発言に問題があった場合は「所属先の組織」の一員として責任を取らせようという意図があるということなのです。これは帰属意識の強い日本では非常に脅威です。
個人として発言した内容が気に入らないからと「あなたの組織にはこんな奴がいるようですが許せないと思います」とタレこまれるわけですから、たまったものではありません。何か放言したくても見知らぬ人からの密告が怖くて書きたいことも書けなくなります。
そりゃ、バカだの市ねだの書かなきゃいいというのはまったくもってそのとおりですが、でも無難な言葉で纏め上げられた文章ばかりが並んでいてそれで楽しいと思えますか。私は面白いとは思わないし、そんな状態になったらインターネットのもつ面白さはなくなると言っても過言ではないと思います。
全ての発言に責任を持たなくてもいいからこそ、内に秘めた本当の思いを吐き出せるのですし、だからこその面白さなのです。
ブレーンストーミングからいいアイディアが出るのはその発言に責任を持つ必要がないからです。とにかく頭の中から自由にアイディアを生み出すだけ。だから楽しいのです。
ネットも同じで、犯罪などに関わらない限りは自らの発言に責任を負う必要がないからこそ様々な面白い話やアイディアがでてくるのだと思います。もちろん楽しいばかりではないけどね。
私は別に実名を出しても構わないと思っています。大したアクセスがあるわけではないですし。
でも実名を出すメリット/デメリットが釣り合わないんですよね。もう完全にデメリットが大き過ぎます。そのメリット/デメリットのバランスが取れるようにならない限りは実名が主な世の中にはならんと思うのです。
ネット上での実名環境は、mixiがちょっといい感じになっていましたが、完全に崩壊してしまいましたし、個人情報保護やセキュリティの絡みで昔以上に実名を出すことは現実味がなくなってきているように感じます。
最後に。
今回、問題の記事を書いた瀬尾准教授が大学から処分されることが決まったそうですが、正直それはやり過ぎのようにも感じられます。ここまで騒がれると何もしないわけにはいかないのでしょうが、個人として発信した内容に問題があったからと言って大学側がそのような処置をすることが妥当とは思えません。
ブログでの発言に問題があったなら、ブログで謝罪をする。それでいいのではないかと思います。過剰に責任を負わせることで解決する問題ではないと思います。
[追記]
いろんな記事を読んでたらこんなものを見つけました。
http://aogaku.campuscity.jp/lecture/f000989/l018096.html
大学の講義に関するアンケートのようですが、ひどい荒れっぷりです。
*1:あえて研究機関とは言わないでおきます