御社の「売り」を小学5年生に15秒で説明できますか?

御社の「売り」を小学5年生に15秒で説明できますか? (祥伝社新書 99)

御社の「売り」を小学5年生に15秒で説明できますか? (祥伝社新書 99)

大分前に読み終えていたのですが、なかなか手が廻らず感想が後回しになっていました。
タイトルからしてユニークで面白そうなのですが、内容もそれに負けないくらい面白く一冊でしたので改めてちゃんと感想をまとめようと思います。


このタイトルを意訳すれば「言いたいことを手短に説明出来ますか?」となると思います。
自らの考えを相手に正確に伝えるというのは誰にでも出来る簡単な事のようで、実はすごく難しいことだと最近気付きました。
もしこの世に生きる全ての人間同士が、自らの考えを正確に相手に伝えるコミュニケーション手段を持っていたとすれば、きっと今とは全く違う世の中になっていたのではないかと思います。
それくらい言葉や文字によるコミュニケーションは齟齬が発生しやすいし、そのちょっとした行き違いでいさかいが起きてしまうことも少なくありません。


伝えたい事を伝える。


そんな一見出来て当たり前と思われがちな部分にスポットを当てて、どうしたら伝えたい事を伝えられるのかということを教えてくれるのがこの本です。


本書の中で再三出て来たのが「本心からではないメッセージは伝わらない」ということです。
小手先のテクニックや他の模倣で作ったメッセージがどれほど優秀であっても、それでは伝わらないと筆者は断言しています。その伝わらない具体的な事例としてある工務店の事例を紹介されていました。
# 非常に面白いところなのでちょっと長めに引用します

 これは大阪府吹田市にある工務店のお話です。その会社の担当者であって大西さんは、以前兵庫県尼崎市工務店に勤めていたときの、会社の社長が作ったチラシをそのまま使って吹田市近辺で住宅見学会の集客をしたことがありました。
 尼崎市で撒いたチラシは、2万枚撒いて見学来場者が120組も来たという工務店業界では驚異的な反響があったチラシでした。そのため、大西さんは吹田市工務店のチラシを任されたときに、尼崎市で使ったチラシを場所と日時だけ入れ替えてばらまけば、そこそこ反応があると思っていました。ところが、予想に反して見学に来場した人は、なんとゼロ。まったく反響がなかったのです。

...(中略)

 ただの猿まねがうまくいかない理由はいろいろと考えられますが、私はひとえに「お客の感覚を過小評価した結果」だと思っています。もっとストレートに言うと「人の感覚をなめるな」ということです。


改めて考えてみると、現代は呆れるくらい様々な情報が溢れています。
テレビをつければ見たくもない番組やそのスポンサーのCMが24時間流れていますし、インターネット上にはキーワード一つで星の数ほどの情報が瞬く間に集まってきます。
そんな中で生きていれば自然と情報を取捨選別する能力も長けてきて、結果、自らに向けられていないメッセージは必要ではないと判断されることになるのだと思われます*1


だからこそ、

    1. どんなにいいメッセージでも他の模倣をするだけでは決して伝わらないのだという事
    2. 本当に伝えたいメッセージは自らの本心から生まれたものでなければいけないという事


を著者は再三に渡って書かれています。


読み終えて、この本のタイトルもすごく工夫されているなと感心しました。
上の方で勝手にタイトルを意訳したのですが、意訳したタイトル「言いたいことを手短に説明できますか?」よりも「御社の「売り」を小学5年生に15秒で説明できますか?」の方が、よりターゲットを絞っていて(御社と言っているので伝えたい相手は働く人、それも相手に何かを説明したり売ったりする事を生業としている人)、何を問い掛けているのか伝わりやすい(「小学5年生に15秒で」という比喩を使って大げさに表現することで伝えたい事をはっきりと提示)のです。


自らの思いが伝わって当たり前だと思いこんでいる人にこそ読んで欲しい一冊です。


[追記]
今回は伝わるメッセージを作りたいという時に参考になる本でしたが、伝わる文章を書きたいという人には以下の本がおすすめです。


おとなの小論文教室。

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理解という名の愛がほしい??おとなの小論文教室。II

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17歳は2回くる おとなの小論文教室。(3)

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*1:これってethernetの仕組みと同じなのですが、そう考えるとよく出来てるなと感心してしまいます