アヒルと鴨のコインロッカー

「誰かが来るのを待ってたんだ。ディランを歌う男だとは思わなかった」
仙台に越してきたその日に、ボブ・ディランの「風に吹かれて」を口ずさみながら、片付けをしていた椎名(濱田岳)は、隣人の河崎(瑛太)に声をかけられた。
「あの声は、神さまの声だ」
そう言いながら、河崎はおかしな計画を椎名に持ちかける。
「一緒に本屋を襲わないか」
同じアパートに住む引きこもりの留学生ドルジ(田村圭生)に、一冊の広辞苑を贈りたい、と言う。
「彼には調べたいことが二つある。一つはアヒル、もう一つは鴨だ」
そんな奇妙な話に乗る気などなかった椎名だが、翌日、河崎に言われるままに、モデルガンを片手に書店の裏口に立ってしまった。本屋襲撃は成功。しかし、
「これ『広辞林』だ......『広辞苑』じゃない!」
不思議と笑みを返すだけの河崎。実は、その計画には、河崎とドルジ、そしてドルジの恋人で河崎の元カノ琴美(関めぐみ)、三人の、愛しくて切ない物語が隠されていた......

http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=7964

MOVIX仙台にて。
ちょうど仙台に用事があったので行くついで程度の気持ちで見に行ったのですが、なかなかよかった。想像してたベクトルとはかなり異なるストーリーでしたがとても面白い作品でした。
ストーリーの詳細な感想は後述するとして(続きを見るに隠して書きます)、引っ越したばかりの寂しい部屋の中や新しい環境で出来た友達との距離を感じる会話などなど、大学や会社に入りたての頃のような微妙な空気を非常にリアルに感じました。頼るところが自分自身の身一つしかなくて、そんな状態でも新しい土地でやっていかなきゃいけないっていうあたりがすごい懐かしく感じられました。全体的に濱田君のドギマギしてる姿はよかったな。


本当にネタばれしないと書くことがないので全体的な感想になってしまいますが、何で本屋を襲撃する必要があったのか、何で広辞苑ではなく広辞林を持ってきてしまったのか、その謎が解けた時の腑に落ちた感はかなりの快感です。見ているのが辛くなるシーンも多いのですが、ぜひ多くの人(特に仙台に思い入れのある人!!)に見て欲しい作品です。

ネタばれありなので見たくない人は以下は見ないでください!
結局、河崎と名乗っていた男はドルジでドルジ(と思ってた人)は単なる山形出身の学生だったわけですが、その構成でストーリーを追い直すと途端に今まで見てきたストーリーが全く違うものに塗り替えられるのです。その一連の流れがすごく新鮮で気持ちがいいのです。


あとはドルジに描き方もすごい良かった。初めて日本にやってきて寂しい思いをしていたドルジを寂しさの底から救い上げてくれた琴美と河崎。その二人を病気と殺害という形で失ってしまったときのぶつけようのない苛立ちを表現している瑛太がすごくいい。言葉もろくに通じない上に聞いても理解出来ないようなところでの新生活という、とても辛い時を支えてくれた大事な人を目の前で失ったその喪失感をあたかも自分の経験であるかのように感じさせられました。
河崎の意思を受け継ぎ、琴美を殺した犯人を(琴美の言葉どおり)鳥葬してやろうというドルジのそのストレートさというか素直さに不思議な暖かさを感じました。復讐は復讐を呼ぶだけだという人もいるけれど、自分の大事な人をむざむざと殺された上にその犯人がのうのうと生きている事実を飄々と受け止めて生きていけるほど強い人ばかりではないんですよね。


まとまらなくなりそうなので、ここらでまとめます(笑)。
この作品の特筆すべき特徴としては、見終わった瞬間にまた見たいと思ってしまう構成の素晴らしさです。椎名が主人公であると告げられたために椎名の視点(新しい生活、河崎への疑いの目など)で物語を追ってしまうのですが、終わった瞬間に「あのシーンを河崎の視点で見てみたら...」とかいろいろと考えてしまうのです。今度はあの人の視点で見て見たいっていう「もう一度見たい感」が今までに経験がないくらい強く感じました。面白かったからまた見たいな〜ってのはたまにあるんですけどね。これは初めて。
このあたりは舞台挨拶で監督がちょこちょこそれっぽい発言をしてたのですが、見終わった後に反芻してみると全て「あー」って納得しちゃうんですよね。舞台挨拶中に、監督の発言を聞いた田村君が「エェ〜」みたいな顔してたのですがそれも今となってはなるほど...と思ってしまいます。


仙台先行上映なので全国的にはまだまだ上映は先になりますが、仙台が舞台だから...という理由でもいいですし原作が好きだからとか出てる人が好きだからとかでもなんでもいいのでぜひ見に行ってみてください。本当にお奨めの一作です。


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