「慈雨の音」読んだよ

流転の海 第6部 慈雨の音 (新潮文庫)

流転の海 第6部 慈雨の音 (新潮文庫)

昭和34年、中学生になったものの、あいかわらず病弱な伸仁の身を案じていた松坂熊吾だが、駐車場の管理人を続けながら、勝負の機会を窺っていた。ヨネの散骨、香根の死、雛鳩の伝染病、北への帰還事業、そして海老原の死。幾つもの別離が一家に押し寄せる。翌夏、伸仁は変声期に入り、熊吾は中古車販売店の開業をついに果たすが―。「生」への厳粛な祈りに満ちた感動の第六部。

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本作は「流転の海」シリーズの第六部です。

17歳のときに第一部「流転の海」を読んで以来、新刊が出るのを心待ちにしながら読み進めてきたこのシリーズもいよいよ6冊目に入りました。どこで読んだのかおぼえていませんが、わたしの記憶が確かであればたしか当初は6冊で完結するはずでした。ところがいつの間にか第八部までは出ることになっているらしく(これもどこで読んだのかおぼえていませんが)、第六部はまだまだ物語は道半ばとなりました。

初めて読んだときから早19年。
主人公の50歳で初めての父親となった松坂熊吾も第六部では64歳となり、著者の宮本輝さんは65歳を超えました。本シリーズを書き始めた当時、たしか宮本さんは35歳だったとおっしゃっていたと記憶していますがその当時は50歳の熊吾を35歳の著者が描いていました。

ところが本作では著者が熊吾の年齢を追い越してしまったわけで、ついに年齢の逆転が起こったのです。

その年齢の逆転がどれだけ本書に影響を与えているのか分かりませんが、第六部を読んで熊吾の人生のおしまいというか最期をにおわせる空気がただよいはじめたことをつよく感じました。生命力の塊のようだった熊吾ですが、年齢的にも立場的にももう大きな成功をおさめるということが不可能であることが明らかになり始め、新しく始めた商売は以前のような大きな商売に発展しそうなものではなく小さな中古車販売店という非常に小さな商いにとどまります。

熊吾は前にも中華料理屋と雀荘を経営したことはあるので小さな商いはこれは初めてではないのですが、あのときは大きな商いへの足掛かりを作る片手間だったわけですから状況は大きく異なるように思えるのです。

結局、前からわずらっていた糖尿病がいよいよ悪化してきたことも手伝って、以前の熊吾からは想像もできないような弱さが少しずつ顔をのぞかせはじめたのです。息子伸仁が日に日に成長を見せるのとは対照的に、熊吾の力はじょじょにかげりを見せるのです。


何だか熊吾ファンとしてはすごく悲しい予感しか残さない展開が続きますが、このシリーズとは20年近く付き合ってきたわけですからどういった終わりになろうと最後まできっちりと付き合っていきたいなと思います。


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