「宇宙のみなしご」読んだよ

宇宙のみなしご (角川文庫)

宇宙のみなしご (角川文庫)

中学2年生の陽子と1つ歳下の弟リン。両親が仕事で忙しく、いつも2人で自己流の遊びを生み出してきた。新しく見つけたとっておきの遊びは、真夜中に近所の家に忍び込んで屋根にのぼること。リンと同じ陸上部の七瀬さんも加わり、ある夜3人で屋根にいたところ、クラスのいじめられっ子、キオスクにその様子を見られてしまう…。第33回野間児童文芸新人賞、第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞の青春物語。

Amazon CAPTCHA

孤独という言葉にあまりよい響きを感じない人もいるようですが、わたしは孤独という言葉が大好きですし、何よりしみじみと孤独だなーと感じる瞬間がとても好きです。よく混同している人がいるのですが、一人ぼっちなのがイコール孤独というわけじゃないんですよね。
むしろ一人でいるだけであれば一人でいることが定常状態なわけですから、感じる寂しさも正直全然大したことがありません。


逆に、都市圏に行って「周囲にはたくさんの人がいるけどその誰もが知らない人ばかりだし、誰もわたしを知らない」という状況の方がよほど孤独をビンビン感じられます。こんなに人がたくさんいるのに誰も自分のことを知らないんだ!という感覚、それこがものすごく孤独を感じさせるファクターだと思うんですよね。
例えばわたしはあまり人ごみは好きじゃありませんが、でも渋谷はすごく好きな街です。元々何度も映画を観に行っているうちに好きになった街なのですが、あそこってものすごく孤独を味わえる場所だからなんですよね。肩がぶつからない場所がないくらい人の多い場所なのに、誰ひとり自分を知らないし、気にもかけていないというあの状況は知る限りでは思う存分孤独を味わえる完璧な環境です*1


家族や友達が近くにいて寂しくないと思っていても結局のところ人間なんて一人なんだよ、孤独なんだよ、というのがわたしの持論なのですが、でも普段生きているといつも周りには自分を必要としてくれる人たちがたくさんいるわけで、そのせいなのか自分が本当に孤独な存在だとは心の底から感じることってほとんどありません。会社でも家でもそれなりに居場所があって、そこに居ることを自分も他者も認めてくれる状況にある限りはさほど孤独を感じないのかも知れません。


話がずいぶんと飛んでしまいましたが、本書を読んでいて感じたのは、生きるということは「孤独とどう向き合うのか、どう付き合うのか」ということではないのかということです。孤独を嫌だと避けているだけではいつか孤独であることに負けてしまうし、だからこそ孤独であることもひとつの事実として認めた上でいかにしてその孤独と向き合って付き合っていけるのか、孤独であることに耐えていくのかということがとても大事なのではないかなとわたしは感じました。
ラストの夜空を見上げならみんなで会話するシーンはわけもなくウルウルしそうになってしまいました。
最初はちぐはぐな印象を受ける作品だなーと思ってたのに、気付けばものすごくのめりこんでしまいました。物語のテンポや語り口がちょっと「カラフル」っぽくて、あー、森さんの本だなーと改めて感じながら読みました。


あと、本作のおもしろい点は、中学生の兄弟が主人公の物語なのに、両親が一度も出てこないんですよね。
親と同居している状況にありながら一度も出てこないってなかなかのインパクトです。その代わりに母親の友だちが出てきてところどころでこの兄弟と関わりあってくれるのですが、このあたりが何となく物語の彩りを大きく決定づける要因になっているように感じました。

*1:ただあまり通い過ぎるとそれはそれで見知った土地になってしまうので行きたいけどいけないという矛盾が生まれたりするわけです