「鈍感力」読んだよ

鈍感力 (集英社文庫)

鈍感力 (集英社文庫)

シャープで、鋭敏なことが優れていると世間では思われているが、本当にそうなのか!?医師としての経験や作家としての眼差しを通じて、些細なことで揺るがない「鈍さ」こそ、生きていく上で最も大切で、源になる才能だと説き明かす。恋愛関係、夫婦生活、子育て、職場、環境適応能力…。様々な局面で求められる鈍感力とは何か。先行き不透明な現代を生きぬくヒントが満載。ミリオンセラー、待望の文庫化。

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入社当初、特に気が合ったわけではないのですが出身が近かったこともあって一緒に行動していた人がいました。
出会った当時はさほど気にならなかったのですが、彼は自分の能力(特に技術力)に自信をもっているようでして、何かにつけて自分の「こんなこともできるんだぜ自慢」をするような人でした。LANを組めるとかプログラムが作れるとか正直そのいずれもさほど大したことではなかったのですが、きっと学生時代はそういうことが出来る人が周りに居なくて自分の実力を過大評価しちゃってるんだろうなーと思って適当に聞き流していました


ただ、さすがにどうでもいい自慢話を毎度聞かされるのも鬱陶しくなってきたわたしは、事あるごとに彼の自慢のひとつひとつを検証してそれのどこがどうすごいのかを具体的に本人に語らせてみることにしたのです。例えばHTMLに詳しいというので、じゃあどういうのを作ったのかを見せてもらえばホームページビルダーでテカテカするサイトを作ってるだけだったり、オブジェクト指向はすごくいいというからじゃあ教えてよと聞いたら多態性もよくわかっていなかったりという具合でして、そのたびに彼には彼の立ち位置というか現実を見せていたつもりでした。


改めて文字に起こすとわたしの性格の悪さばかりが目立つのであまり書きたくないのですが、でも彼がその湯葉並みに薄っぺらい知識をひけらかすところとか、決して自分の間違いや非を認めない性格がホント嫌だったんですよ。実力もないのに自信満々なのも腹が立つし、他人から間違いを指摘されても絶対に認めないのはもはや頑固を通り越して害悪でしかないと思っていましたし、そもそも技術的な間違いを間違いとして理解できない時点でその程度の実力なんだから身の程を知れと何度も言いました。


結局彼は一度も自分のミスは認めなかったし口をついて出る自慢も減ることはなく、大層な夢を口にして会社を辞めていきました。


本書を読んでまっさきに思い出したのはまさにこの彼の事でして、決して他人の意見には耳を貸さず自らの能力を信じてわが道をいってた彼の一番の取り柄は「鈍感力」だったんだなと思っています。もしかしたらそのうち大成してその名を聞くことがあるのかも知れないなと思ったり思わなかったり。
少なくともわたしよりも長生きする素質はありそうです。


さて。本書はトピックが短く章仕立てに分けられており、生きていく上でどう鈍感力を発揮していくべきなのかということについて語られておりとても読みやすい本でした。ナイーブで折れやすい心を持つわたしにはなかなか実践が難しそうですが、必要なものとそうではないものを見分けて必要なもの以外には徹底して鈍感であることを心掛けたいと感じました。くだらない批判には耳を貸さず、自らを鼓舞するような意見だけを取り入れて前に進むことが果たして長期的に見てよいことなのかと問われると心の底からは同意できないわけですが、それでもストレスフルなこの世の中をうまく生きぬくためにはそのくらいの図々しさがあった方がいいような気がします。


ただ、単に鈍感なだけでは「愚鈍な人」という評価を得て終わるだけですから、主たる能力を身に付ける努力を続けながら、細かい批判には無関心でいられる鈍感さも身に付けていきたいと感じました。