「新宿インシデント」見たよ


中国の貧しい東北部で、トラック整備士として働いていた鉄頭(ジャッキー・チェン)は、日本に留学し、音信不通になっていた幼なじみの恋人・シュシュ(シュー・ジンレイ)を探すため日本に不法入国する。鉄頭は、日本紙幣を握りしめ、東京の新宿・歌舞伎町へと向かう。言葉も分からず土地感もない異邦人の彼は、日本の警察の取り締まりや日本のヤクザ、それに中国マフィアからの圧迫という恐怖と闘いながら、歌舞伎町で出会った同郷の不法滞在者の仲間と共に、最底辺の仕事をこなす日々を送っていた。だが、やっとの思いで探し出したシュシュは、ヤクザの組長と結婚し、娘までもうけていた…。それでも、鉄頭は日本に残り、仲間と共に新宿で生き抜いていくことを決意する――。新宿・歌舞伎町を舞台に、国際派スターのジャッキー・チェンを主演に迎え、香港・中国・日本の実力派スター&スタッフが集結したアジアン・ノワール作品。

『新宿インシデント』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮にて。ジャッキー・チェン最新作。


わたしの生まれた秋田県日本海に面しているためか、海沿いの至るところに「不法入国するな」みたいな立て看板があります。茫洋と広がる青黒い日本海に面した、建物も何もない道路端にポツポツと立てられた日本語と中国語とハングル語が混在した看板をながめていると、日本では無い場所にいるようなそんな不思議な気分になります。
実のところ、このあたりに中国人、韓国人が不法入国したとかそういう船が来たという話はまったく聞いたことがなくて、見かける外国人といえばロシア人ばかりです。ロシア人はいつも自転車に乗って廃品回収みたいな真似事をしてはいろんなものをかき集めて国に持ち帰ろうとするのですが、それは今回の話には関係ないのでどうでもいい。
たしかにロシア人に関するおもしろい話もいくつかあるけれど、それはまた別の機会に書くことにしますが、とにかくこんな立て看板に意味があるのかどうかと言うことはいつも不思議に思っていたことであり、そもそも不法入国してきた後にそんな立て看板があったところで「あぁ、すいません...」なんて帰るわけがないのですからあんなに無意味なものはないと思うのです。それでも「君らがどういうつもりであれ、我々は君たちの入国には断固反対の意思を表明するよ」という意思表示だと考えれば、例え実際には意味も効果もないことであったとしてもこれはこれで大事なものなのかも知れないなと思ったりします。


不法入国自体がよくないこと、という問題点はおいておくにしても、なぜこれほどまでに中国から人が入ってくることを忌避しようとするのか、そもそも中国人を嫌う人がいるのかということについてはこの作品を観るとよく理解することが出来ます。
何もせずとも日々それなりに生きられる日本人と、異国の地でその日一日の命をつなげることに精一杯でどんな手を使っても日銭を稼ごうとする中国人。生やお金への執着の塊みたいな中国人は、毎日を安穏と過ごす日本人にとって自らの立場をおびやかす存在としてうつるでしょうし、そうなった場合には彼らを排除する方向へ話が飛んでしまうことも止むを得ないことのように感じます。


本作の見所はそのような国家やヤクザ、一般市民たちから受ける強烈な排除や差別をかいくぐって命をつないでいく様子であり、そんな毎日にジャッキー演じる鉄頭が肉体的/精神的に徐々に追い立てられていくところにあります。どんなに苦労を積み重ねても、手に入れられるのは一時の休息だけ。海に漂うクラゲのように、時代や周囲に振り回されるだけ振り回されて、結局安定した生活にはたどり着くことが出来ない彼らの姿には息苦しさ以上にやりきれなさと切なさがこみ上げてきました。
だからといって彼らに同情するつもりはまったくありませんが、観終わって己の身の丈相応の幸せ、つまり少欲知足というものがすごく大事だという思いだけが頭の中に残り続けました。
そんな皆が足ることを知っているような世の中はつまらないとも思うんですけどね...。


そして主演であるジャッキーについてですが、わたしはこれほどオーラの見えないジャッキーは観たことがありませんが、アクションがなくても彼はものすごいんだということだけはとてもよく理解出来ました。サモハン・キンポー派のわたしも今回ばかりはジャッキーのすごさに感服してしまいました。


最後に先日読んだ「風に舞いあがるビニールシート」から一文を紹介して終わりにしようと思います。


風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

「仮に飛ばされたって日本にいるかぎり、君は必ず安全などこかに着地できるよ。どんな風も君の命までは奪わない。家を焼かれて帰る場所を失うことも、目の前で家族を殺されることもない。好きなものを腹いっぱい食べて、暖かいベッドで眠ることができる。
それを、フィールドでは幸せと呼ぶんだ」


310ページから抜粋


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