ドロップ



私立のお坊ちゃん中学校から“漫画みたいな不良”に憧れて、公立狛江北中学校に転校したヒロシ(成宮寛貴)。赤い頭にボンタン姿のヒロシは早速不良たちに目をつけられ、河川敷に呼び出される。そこにやって来たのは、アイドル顔でありながら極悪非道なカリスマ不良・達也(水嶋ヒロ)だった…。いきなり、達也とタイマンを張ることになったヒロシ。だが、あっさりと達也にぶちのめされてしまう。しかし、このタイマンを機に、転校初日からこの不良グループの仲間入りを果たすことになる――。累計180万部を突破した、お笑いコンビ・品川庄司品川ヒロシのベストセラーを基に、自らメガホンを取ったリアル不良ストーリー。絶大な人気を誇る、成宮寛貴×水嶋ヒロのW主演が話題を呼んでいる。

『ドロップ』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮にて。

最近、どうも世間がヤンキーを求めているような気がしてなりません。昨年公開された「クローズ」は大ヒットを記録しましたし、さらに今月11日からは満を辞して続編が登場するほど人気があるようです。さらに先月公開の「エリートヤンキー三郎」は....見なかったのでどうだったのか分かりませんが、予告を観た限りではヤンキー映画だったのだけは間違いありません。あれでヤンキー映画じゃなかったら詐欺だね。
そして公開直後から順調に興行成績をのばしている本作「ドロップ」もまた出てくる人の80%くらいがヤンキーと暴走族いう高純度のヤンキー映画です。
ここ一年間で公開された映画だけ見ても、ヤンキーブームがきていることは間違いないと言えます。


また、町を歩いていてもヤンキーやいかにも暴走族風の人々が闊歩しているのを見かけますし、夜にランニングをしているとその横を暴走族が駆け抜けていくなんてのもさほど珍しい出来事ではありません。背中にかわいい犬の顔がついたジャージを着た人や特攻服で歩いている人を見ても特にものめずらしさは感じないほど日常にヤンキーがありふれていて、世の中の多くの人がそのような尖った存在を違和感もなく受け止めているように見えるのです。
実際には「栃木県(宇都宮)だからヤンキーが多いんじゃ...」というのも確かにうなずける指摘ですのでそれはそれとして受け止めておきますが、とにかくいまヤンキーというのが決してうるさくて自己中なだけの疎ましい存在ではなく、何かあこがれの存在として注目を集めているようなそんな印象を抱いています。


本作は品川ヒロシが監督をしたことで話題になっていますが、そのような話題性だけの作品ではなく非常に惹きつけられるおもしろい作品でした。そして、この作品を観ていたら「なぜヤンキーがいま受けているのか」ということも何となく分かったような気がします。


ヤンキーの魅力と言うのはその極端なほどのストレートさにあると思います。
自らの欲望を隠すことなく素直に表現し、欲しいものは力づくで奪おうとするその傲慢さ。世界平和に真っ向から戦いを挑むその姿勢は日本ではなかなかお目にかかれないほどにアウトローです。
ヤンキーは「話は聞かない」「人の言っていることを理解しない」「自分の要求は何が何でも突きとおす」ような人種ですから、近くにいたら鬱陶しくて嫌になるのは間違いありませんが、それでもひとりの人間としてみたときにその力強さに何か惹かれるモノを感じてしまう気がするのです。


例えば、普段わたしは意識/無意識を問わず、さまざまなことを我慢しながら生きています。
「朝、もっと寝ていたいのだけれど会社に行かないといけないからがんばって起きる」ですとか、「今日で公開が終わりの映画があるけど大事な会議があるから観に行けない」、あとは「道を歩いているかわいい女の子に声をかけたいけれど横に彼氏がいるから諦めた」とか、とにかくいろいろなことを我慢しながら生きているわけです。
それは周囲からの信頼を失わないための方策でもあり、また、無駄に敵を作らないための知恵でもあります。
遅刻や無断欠勤をして会社や同僚からの信頼を失うことはとても大きな痛手ですし、映画を観るからと会議をすっぽかしていては大事な意思決定に関わる機会を失うことになりかねません。
また、彼氏が横にいる女の子に「これから一緒に遊びに行こうよ」なんて声をかけたとしたら、ほぼ間違いなく悲惨な結末が待っているに違いありません。女の子には「キャーきもい!!」とか大声をあげられて、さらに彼氏にはすぐにねじり上げられてしまいそうです。悲しすぎる..。
そういう結末を含めた損得を考えながら、自分の欲望を適度にコントロールして生きるのが大多数の普通の人であり、それを抑えてまで欲求を満たそうという人はそうそういないのです。


「ヤンキー」はこの数少ない「自己の要求を突き通そう」とする人種のひとつだとわたしは考えます。
そしてそのような行動の取れない私は、彼らのような我をとおす強さに嫉妬だらけの憧れを感じるのです。
やっと話が最初に戻りますが、何をしても目立てばたたかれるこの時代に閉塞感を感じた人々が、自分のやりたいことをストレートに表現してそれを実行する強さを持つ人間に対して憧れをもち、その羨望の矛先としてヤンキーが槍玉にあがっているのではないのかなと思います。最近ヤンキー映画が増えた理由はこれで間違いなしですね!!


そんな与太話はさておいて、上にも書いたとおり予想外にと書くと大変失礼ですが、予想以上におもしろい作品でした。
ケンカがさほど強くないヘタレな主人公ヒロシが、そのキャラクターを生かしてどんどん仲間を増やしていく様子がまるでRPGのようでおもしろかったですし、同時に欲望の赴くままに行動するヤンキーの傲慢さもはっきり描かれていてヤンキー好きにはたまらない作品に仕上がっていました。
あとは吉本が絡んでいるせいかワンシーンだけ出ているお笑い芸人の出演者も多く、さらにそのキャストもなかなか豪華でして意外性があって楽しめました。


実はこの作品を公開直後に観る予定だったのですが、最初の一週間は座席がなかなか取れなくて観るのをしばらく保留にしていました。
さすがヤンキー大国栃木県のヤンキー人気には驚かされます。

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