変身

変身 [DVD]

変身 [DVD]

変身 (講談社文庫)

変身 (講談社文庫)

脳移植手術を受けた青年にしのびよる灰色の恐怖。君を愛したいのに、愛する気持が消えてゆく…。全編にみなぎるサスペンス。

http://www.amazon.jp/dp/4061856987


初めてこの原作を読んだときにはあまりに救いのない展開に背筋がゾクゾクしたのをおぼえてます。
移植された他人の脳によって自意識が徐々に乗っ取られていく侵食感に震えるほどの恐怖を感じながら人体の不思議について思いをめぐらせずにはいられませんでした。移植前は虫すら殺さないようなおとなしい性格だった成瀬が、さまざまなものに対して無秩序に怒りを向けるような人間に変身していく様は、それまで抑え込んでいた欲望を外部から得た力で一気に解放させているような、そんな変化に爽快感すら感じさせられるとても不思議な作品でした。
この作品が映画化されているというのは結構前から知っていたので予習がてら原作を再読してからDVDw鑑賞をしましたが、映画の方は噂どおり非常に残念な作品でした。これは原作を読まないで観るとあまりに虫食い過ぎて全然意味が分からないじゃないかと思います。逆に原作を読んでから観るとそのストーリーの不足分については脳内で補完出来るものの、具体的に何が抜けているのかが明らか過ぎてそれがないことに対してイライラしてしまうのです。さらに言うと出てくるすべての人たちの心理描写が無さ過ぎてそこにも不満を感じます。
結局原作既読/未読にしても、いろいろなことが端折られ過ぎててかなり物足りなさを感じさせられましたし、キャストも題材もよかっただけに非常に残念だという気分で観終えました。


もちろん、これだけボリュームのある作品を2時間の映像に収めようというのはかなり難しいとは思いますが、それにしても削るべきところを大きく見誤ったことは否めません。例えば成瀬が自分自身が変わっていくことに思い悩む描写が思いっきり削られていることで、成瀬自身が抱える葛藤が全く見えてきません。これでは成瀬は単に狂ってしまいました→「終わり」というそれだけにしか見えないのです。また、成瀬に脳を提供したドナーが誰なのかというのを突き止めるに至る一連の流れについても原作の展開を飛び飛びで映像化しているだけなのでなぜそのような答えに至ったのかがさっぱり見えてきません。特に京極の妹と会う部分など、あまりに唐突過ぎて意味不明にもほどがあります。


個々のシーンはとにかく素晴らしいし、その点についてはひとつも不満はありません。
成瀬が玉木宏というのは少々かっこよすぎるというのも全然問題ないし、メグが蒼井優だなんてかわいすぎるけどでも心の底からウェルカムです。成瀬が絵を描くことに没頭しているシーンなんて本当にイメージどおりだったし、画材店で働くメグのかわいらしさはとても印象的でした。ひとつひとつのシーンはこれほどいいのに、何でこんなもったいないことになってしまったのか残念という言葉では語りつくせないほど残念です。


今まで小説や漫画など、さまざまな作品の映画化というものを観てきましたがどれも多少の不満はあるものの、ひとつの映画としてここまで不満を感じるものはありませんでした*1。原作の素晴らしさがまったく活かされない映画化がこれほど観る人を不幸にすることを初めて知りました。
好きな作品の映画化って本当に怖いです...。


公式サイトはこちら

*1:わたしが忘れているだけかも知れませんが...