自分の中にある悪意には誰もが鈍感だよねというお話


仁川でアジア大会が開催中ですが、ふだんはスポーツ観戦をあまりしないわたしも自宅にいる時間にちょうど中継が流れていることがありまして興味のある競技についてはいくつか観戦しました。

オリンピックや世界選手権だと日本との時差が大きなところで開催されることが多いのですが、アジア大会だと時差はあまり大きくないですし特に今回は韓国での開催ということでほぼリアルタイムで競技を観ることが出来てすごくよかったです。とりわけ柔道と陸上という一番興味のあるところを観ることができたのはすごくうれしかったです。

陸上の5000m、10000mは中東勢、柔道はモンゴルの強さが印象的でした。

さて。
そんなアジア大会も残すところあと2日となりましたが、最終日の3日には男女のマラソンがあります。



仁川アジア大会のマラソン日本代表が30日、仁川市内のメーンプレスセンターで記者会見し、男子で7大会ぶりの優勝を狙う川内優輝(埼玉県庁)は「ずっと金メダルを目標にやってきた。達成できるように頑張りたい」と決意を語った。

マラソン川内「金メダル目標」 アジア大会 (写真=共同) :日本経済新聞


わたしも市民ランナーの端くれですのでマラソンを観るのはすごく好きですし、3日はすごく楽しみにしていますが、このニュースで川内選手を見たときに8月のある出来事のことを思い出してすごくもやもやした気持ちになりました。あまり気持ちのいい話ではないのでブログに書いたり誰かに話したりせずに抱えて込んでいたのですが、また思い出してしまったのでちょっと吐き出そうかと思います。


2014年8月10日。

連休の後半がお盆と重なるように夏休みをとったわたしは、マラソン大会に参加するために青森県の竜飛岬へ行ってきました。



「走るためにわざわざ青森まで!?」というツッコみはここではご遠慮いただくとして、どうせ秋田まで帰るんだからちょっと足を延ばして青森に行ってもいいんじゃない?という考えはとても軽率だったと思うしそのことはすごく反省しています。竜飛岬はほんと遠かったし、移動距離はぜんぜんちょっとじゃなかったです...。


ま、それはそれとして今回書きたいのはそこで参加した「竜飛・義経ラソン2014」で出会ったある人との会話がすごく不愉快だったという話です。


この大会は竜飛岬の先端にある漁港をスタートして海沿いを走る大変風光明媚なすばらしいコースなのですが、スタート地点は受付場所から12km離れていて受付後にバスでスタート地点まで送ってもらうというとてもユニークな大会でした。いままで50近くの大会に出ましたがこういうのは初めてでした。



受付を早めに済ませたわたしはスタート地点への移動もかなり早めに済ませてしまい、スタートまでの1時間はスタート地点である竜飛漁港の周りをチンタラ走って過ごしました。当日は台風が近づいてきていたためかものすごい強風でして、30分くらいアップしたあとに雨風を避けるように小さな小屋の下で雨宿りをしていました。

そこで休んでいると、齢60歳は超えていそうな男性が駆け込んできてしばらくそこで雨宿りをしながら世間話をしていました。
年齢はまったく違いますが、そこは同好の士ですからマラソン大会の話なんかをネタにしばらく歓談していました。その方は青森県に住んでいるそうで、東北を中心にあちこちの大会に参加しているようでした。聞くとわりとたくさんの大会に出ているようでしたので、以前から興味のあったいくつかの大会の名前を出してみたら出たことがあるというのでどういう感じなのか教えてもらったりしていました。

しばらく話をしていたのですが、話題は前の週に開催されたメロンマラソンのことに話が及びました。

メロンマラソンというのはわたしの地元である男鹿市で8月第1日曜日に開催されているマラソン大会でして、参加賞はメロン2個で完走後はメロン食べ放題というメロン好きにはたまらない大会です。昨年は帰省ついでに出場したのですが今年はさまざまな予定と重なってしまって参加出来ずにいました。そんなわけで今年はどうだったのかなーと思っていたところ話をしていたそのお爺ちゃんは参加したということであれこれ話を聞いてそこでまた盛り上がりあした。

気温は去年と同じくらい高かったとか今年から完走証がA4になったなんて話を聞いて来年は出たいなー出ましょうよなんて話をしていたのですが、不意にゲストランナーが川内さんだったという話になったのです。わたしはある大会で川内さんが走っているのを見たことがあったので「川内さん速かったですよねー」なんて話を振ったのですが、その瞬間に爺さんがブチギレたのです。


「あんなやつ、さっさと走れなくなればいいんだ」


あまりに唐突過ぎる切り返しになんと言葉を返していいのか分からず、「ふぇ?」と腑抜けた返事をしてしまったのですが、そこからもうものすごい勢いで川内さんへの罵倒というか聞くに堪えないような言葉が出てきてわたしは固まってしまいました。


話を要約すると、どうやら川内さんにサインを頼んだらしいのですがそれを断られたことがあまりに気に入らなかったようです。
原因はただそれだけ。でももう家族を皆殺しにされた人のように延々と川内さんへの呪詛の言葉を紡いでいたのです。あまりにひど過ぎて書けないくらいひどい言葉ばかりです。正直、他人に対してこれほど強烈な悪意を向けている人というのは記憶にありませんし、そう断言できるくらい強烈な怒りでした。いま思うと、怒りに震えながら言葉を吐き出し、吐き出した言葉を改めて自らの耳でとらえることでさらに怒りが湧き出しているようなそんな感じでした。まさに憤怒という感じでしょうか。


さらに驚いたのはどうやらサインを断られた際に、川内さん本人にもかなりひどい言葉を投げつけたらしく、曰く「お前なんか走るの止めちまえ」だとか「二度とくるな」と言ってやったと誇らしげでした。


サインを断られたことはすごい不愉快だったかも知れませんが、けどそのことに対する怒りのボリュームがあまりに異常だと思いました。

いやいやおかしいのはあんただろうと言いたい気持ちがふつふつとわきあがってきたのですが、あまりにひどい罵倒を聞いていたら一気に話す気力もなくなってしまい、適当に切り上げって逃げるようにその場をあとにしました。


おそらく彼の中ではサインを断るということはものすごい悪い行為であったのだろうと思うし、受け入れてもらって当然と思っていたことを断られたことに怒りをおぼえたことについては理解が及ばないわけではありません。ただ、あれほど穏やかに走ることの楽しさや大会に出ることのおもしろさを語っていた人が、ひとたび嫌いな人のことが俎上にのぼっただけであれほど豹変するものかといまでも信じがたいほどです。



わたしは絶対あんなふうにはなりたくないなと思う反面、でもじつはわたしにも他人から見たら異常だとしか思えない悪意みたいなものを自分の内側に飼っていて、ある瞬間、彼のようにそれを露呈しまう可能性は決して否定できません。


あの人の異常とも言える豹変ぶりを見て感じたのは、自分が憧れのような感情をもっている人に対して理不尽な批判をしていることへの怒りと、あんな異常な部分が自分の中にもあるんじゃないかということに対する怖さでした。彼の老人は自分の言っていることややっていることが異常だなんて思ってなさそうでしたが、わたしからすればどう見ても異常者にしか見えなかったわけでそのギャップがもはやホラーとしか思えないレベルでした。


自分の考えや価値観を絶対的に正しいものだと思ってしまいがちですが、そうじゃないんだよということは常に念頭に置いておきたいなということを肝に銘じておきたいものです。