「ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー」見たよ


世界一周28か国を515日間かけて、各地でライブを行い、世界の音楽と文化と触れあったひとり旅の経験を持つ、ナオト・インティライミ。今年、彼は原点とも言うべき、世界の音楽と人に触れあうために、もう一度旅に出た。目的地は、過去訪れた地でもある南米コロンビアや初めて訪れる地、アフリカのエチオピアカリブ海。各国の人たちと交流することで、旅の魅力を織り交ぜながら “音楽の素晴らしさ”を観る者に刻み込んでゆく。そして、ナオト・インティライミが持つ人間力あふれる姿が、いま明かされる――。

『ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー』作品情報 | cinemacafe.net


MOVIX宇都宮で観てきました。


今年になってから走ることが最優先事項となってしまったために、映画を観たり本を読んだりするために割ける時間がどんどん少なくなっています。
とりわけ影響を受けているのが映画でして、公開前からとても楽しみにしていたくせに観に行く時間がとれなくて見逃してしまうというケースが増えてきています。たとえば「ジャンゴ」や「ドラゴンゲート」なんかがその代表的な例ですが、予告を観てあんなに楽しみにしていたくせに気付いたら上映が終わっていたなんてことがあり、何度も悔しい想いをしました。


そんな「観たくても観られない作品」がたくさんある一方で、さほど観たいとは思っていない映画だけどちゃんと観に行く作品というのも多くあります。

と書くと、「そんな大して観たいとも思っていない作品なんか観ないでもっと観たい映画を観たらいいんじゃない?」と言われることがありますし、わたしもその言い分はたしかに一理あると思います。ですが、わたしには観たい・観たくないという基準だけでなく「わたしなりに優先させるべき順位づけ」というのがあり、そのプライオリティにしたがって観る作品を決めているのです。

では、わたしが「自分が観たい」という優先順位以上に優先していることがなにかと言えば、それは「誰も観に行かなそうな映画」を観に行くということです。言い換えれば「わたしが観なければ誰が観るんだ」という映画をちゃんと観ることをわたしは自身のミッションだと信じているのです。


話は少し変わりますが、世の中にはたくさんの映画が公開されています。

そしてそんなたくさんの映画の中には、公開前の時点で「きっと誰も観に行く人がいないんだろうな...」としか思えない作品というのがあります。具体的な作品名を挙げることはしませんが、映画館でよく映画を観る人であればそのような映画をいくつか思いつくと思います。


「それっていわゆる地雷映画のことでしょ」と思った方。ざんねんですが半分正解で半分は間違いです。


もし、ある映画が地雷映画(==つまらない映画)だと分かったら誰も観に行かないんじゃないか?と思う方もいるかも知れませんが、決してそんなことはありません。世の中にはわりと多くの物好きがいて、地雷と聞けば踏みに行かないと気が済まない人がたくさんいます。わたしも地雷処理班として活動するときがあるのでそういった人たちの気持ちはよくわかります。


ただ、そもそも映画というものは観てもらってなんぼのものですので、たとえ地雷扱いされたとしても作品の存在を認知してもらって誰かに観てもらえたのであれば、その時点で十分報われているとわたしは思っています。だから地雷扱いされることは個人的には悪いことばかりではないと思っています。
もちろん本当につまらなければ酷評されることもあるかも知れませんが、ちゃんと観たうえでの感想であればそういった評価をくだされることはやむを得ないことです。その映画が地雷であろうがなかろうがを観た人がどういった感想をもち、どう解釈するのかをコントロールすることはできない以上、観てもらった時点で映画は十分評価されているとも言えるわけです。


すいません。ずいぶんと話がややこしくなってきましたが、上でわたしが指摘している「誰が観に行くんだ」という作品はそういった地雷作品のことではなくて、そもそも話題の俎上にすらのぼらないし、仮に話題にあげたとしても「え?そんなの公開してたんだ」と言われるような存在感がCO2並に薄い作品のことをさしていると言いたかったのです。


本作「ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー」のことはMOVIX宇都宮に貼られたポスターで知ったのですが、上映されると知ったときから「これは俺が観に行くべき作品なんじゃないか」とずっと気になっていました。彼のファンがどれだけいるのか分かりませんが公開前はおろか公開直後もまったく話題にのぼることがなく、まさに上で書いたような「わたしが観なければ誰が観るんだ」という作品だと確信して公開3日目に劇場へと足を運んでみてきました。


で、まずびっくりしたのが自分の他に誰も観に来ていなかったということです。

そりゃたしかに「自分が観なければ誰が観るんだ」とは思っていましたが、公開3日目のメンズデー*1なのに自分以外誰もいないなんて思っていませんでした。しかも上映されていたシアター7はMOVIX宇都宮の中でも1番か2番に大きいスクリーンなのですが、公開直後の作品なのにここを貸切りで観ちゃいましたよ...。
公開された直後なのに一人で鑑賞するという経験自体は初めてではありませんが、でもMOVIXのあの大きなスクリーンで一人というのは初めてでした。


しかも翌日のレイトショーに観に行った方の情報によるとその方もひとりで観たらしく、なんと2夜連続のシアター貸切り状態だったようです。

まさかのお通夜2連発とは...。


そんなわけで人の入り(宇都宮限定ですが)的にかなりお寒い状況である本作ですが、内容はまさに「これを観て(おれ以外)誰が喜ぶんだ」という内容でして人が入っていないのも納得の作品でした。


本作は世界ツアーを夢見て活動中のナオト・インティライミさん(以下インティライミさん)が3か国を旅して得た経験をもとに歌を作るという内容でして、各国を旅したり帰国してから楽曲を作る様子を撮ったドキュメンタリーです。わたしはこの映画をとおしてインティライミさんの歌を初めて聴きましたが、歌声も音楽もとてもいいと思いました。ですが、曲一曲作るために3か国まわるというのもその意図がよくわからなかったし、さらに各国を回ってやったことと言えば「現地人の真似をして体調を崩す」ことや「現地のフェスやバーにもぐりこんで歌わせてもらおうとする」ということだけでして、そのことがどれだけ楽曲の作成に結びついているのか?というのも不思議でなりませんでした。

そういった「事情や状況がよくわからない部分もふくめておもしろい」と思えるのであればこの作品を楽しめると思うのですが、果たしてそういう人がこの世にどれくらいいるのかはなはだ疑問です。


とりあえず各国におけるインティライミさんの活動を簡単にまとめますので、これを読んで興味をもった方がいればぜひ映画館に足を運んでこの映画を観ていただきたいです*2

1か国目:エチオピア

エチオピアの南部にあるという小さな村を訪れることにしたインティライミさんですが、この村がまた遠いらしく飛行機が付いた場所から車で二日かかる場所にあるそうです。その村は文字さえ使わない昔ながらの生活をしている原住民たちの住む場所らしく、到着当初はインティライミさんやカメラマンの人をみなすごく警戒していました。

そんな彼らの警戒を解こうと、インティライミさんはあれこれ頑張ります。現地の人たちに一生懸命話しかけたり同じ格好をして見せたり、ときには通訳を通さずにたくさんのコミュニケーションを取ろうと頑張るのです。さらに現地の人にすすめられた素性のよくわからない自称コーヒー(コーヒーの皮を煮立てたものらしいです)を何口も飲んで見せてなんとかその中に取り入ろうとするのです。
この頑張る様子は見ていてすごくグッときたし、彼の人間力のつよさがとてもよくアピールできていたと思います。


そんな努力の甲斐もありやっと仲良くなって打ち解けてきたインティライミさんは、ある男性から近くの川までいっしょに行こうと誘われるのですが、ここで大きな問題が発生します。なんとインティライミさんが体調不良で倒れるのです。本人のナレーションによると、どうやら彼らが振る舞ってくれたコーヒーがあたったか、もしくは彼らを真似て薄着で外を歩き回っていたのが原因らしいのですが、とにかく本格的に具合が悪いらしく川へのお誘いを断り、近くのロッジに帰って寝ることに。

村で一緒に寝泊まりして交流を深めようという展開なのかと思っていましたが、ベッドで寝込んでいるインティライミさんが「こういうハプニングも旅の醍醐味だよね(意訳)」というセリフで自分を慰めてスタッフに言い訳をするという予想外の展開に。東野圭吾さんの作品並みに展開が読めません。すごいな。


結局、体調不良で寝込んでいたせいでさほど交流らしき交流もないままその村をあとにすることに。そんな遠くまで何しに行ったの...。



↑歌ってごまかすインティライミさん


2か国目:コロンビア

8年半前にいっしょにフェスで歌ったという旧友を頼ってコロンビアへ。
当時いっしょに歌ったその歌手はいまでは大物になっているようでして、懐かしがってインティライミさんに快く会ってはくれるものの、約束を一方的に反故されたりと扱いがわりと雑なところがリアルでドキュメンタリーらしい生々しい感じが出ていました。



↑フェスに呼ばれたけど時間が無くて歌えず拗ねるインティライミさん


3か国目:トリニダード・トバゴ

トリニダード・トバゴにはカーニバルの時期に合わせて渡航したようで、そのカーニバルで盛り上がる様子を中心に映されていました。
ここではコロンビアのように昔からの知り合いがいなかったようですが、事前に取材という名目で現地の人気歌手にアポを取りつけていたらしく、その歌手と交友を深め、フェスで歌わせてもらうところを中心にまとめられていました。

おそらく過去2か国での失敗を活かして、かなり綿密に準備したものと思われますが、ここにきてあまりに手際がよくなりすぎたために一気にドキュメンタリー感が薄れてしまったように感じました。


予想外の展開はもう無いのか...とあきらめかけたそんなカーニバル最終日の夜。大勢の人たちが夜通し騒ぐ様子がスクリーンに映し出されていたのですが、その中にどうみてもヤクをきめているとしか思えない表情・行動で映し出されるインティライミさんを観てこれはもう異様にドキドキしました。果たしてこれは映画館で観ていいのか?と思ったかどうかは内緒ですが、これまた想定の斜め上をいく感じがしてたいへん心躍る映像体験ができました。



↑現地の人にまぎれてさわぐインティライミさん


まとめ

おもしろいかどうかはさておいて、インティライミさんの人となりやコミュニケーション能力を中心とした人間力のつよさはすごく伝わってくる作品でした。わたしは映画自体のつくりは好きじゃないのですが、彼のキャラクターや楽曲もろもろはとてもいいなと思いました。ただ、映画の中身をよく吟味すれば、海外でやったことは「フェス乱入」か「突発的なハプニング頼み」だけというところはちょっといかがなものかと思います。おもしろかったからいいけど。


おそらく観てみればそれなりに楽しめる人もいる内容だと思うのですが、予告もふくめた事前情報から手に入る内容だけで判断すると、そもそも観てみたいと思うにいたる要素がほとんどないんですよね。認知度向上もふくめ、もうちょっとアピールの仕方を考えるべきだったんじゃないかと思います。


公式サイトはこちら

*1:毎週月曜日は男性が1000円なのです

*2:そして観た感想をわたしにこっそり教えてもらえるとうれしいです