- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2011/11/10
- メディア: 文庫
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東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通してしだいに心を許しあうが、いつしかその関係性は変容していた。―あの人たちと離れればいい。なぜ私を置いてゆくの。そうだ、終わらせなきゃ。心の声は幾重にもせめぎあい、壊れた日々の亀裂へと追いつめられてゆく。
http://www.amazon.co.jp/dp/4575236497
東京で同じ地域に住む5人の主婦たちのすがたを描いた群像劇でしたが、読みながらため息が増えるとても苦しい作品でした
最後の方まで読んでこの作品が「音羽事件」と呼ばれる幼女殺害事件をモチーフにした作品であることがわかったのですが、そういった特異な事件を扱っているとは想像できないくらい市井の人たちのすがたを描いていることにおどろいてしまいました。
そしてそのことを理解したうえで作品をあらためて眺めてみると「人間関係においては引力の原因となるものは斥力にもなりうる」という普遍的な事実があるように感じました。
生活レベルも価値観も異なる人たちが、育児という共通事項を介してその中を深めていくようすは新しい知り合いが増えることで世界が変わっていく楽しさが感じられたのですが、彼女たちの間にはじょじょに亀裂が入っていくさまは読んでいて戦慄しました。育児という共通の興味が5人を引き付けたわけですが、その育児が今度は5人の決別を決定づける要因になっていくというのはとてもおもしろいなと感じました。
生活レベルが違う、価値観が違うということは同じ目線に立つことがむずかしいということであり、いくら共通の話題や興味があったとしてもそれだけでつながりを保ち続けることはなかなかできないんだなとしみじみしてしまいました。