「僕のなかの壊れていない部分」読んだよ

僕のなかの壊れていない部分 (光文社文庫)

僕のなかの壊れていない部分 (光文社文庫)

出版社に勤務する29歳の「僕」は3人の女性と同時に関係を持ちながら、その誰とも深い繋がりを結ぼうとしない。一方で、自宅には鍵をかけず、行き場のない若者2人を自由に出入りさせていた。常に、生まれてこなければよかった、という絶望感を抱く「僕」は、驚異的な記憶力を持つ。その理由は、彼の特異な過去にあった。―生と死の分かちがたい関係を突き詰める傑作。

http://www.amazon.co.jp/dp/4334923631

わたしはあまり社交的な性格ではないのでそれほど多くの人と積極的に関わってきたわけではありませんが、それでも「世の中には意見のすりあわせようのないくらいに理解しあえない人がいる」ということはよく理解しています。わたしの経験上、同じ生活圏内で生活していく上でもっていて欲しい共通認識や前提をまったく共有できない人がいるというのは事実なのですが、本作の主人公からはまさにそんな印象を受けたのでした。


冒頭、付き合っている女性がその人の過去のことを教えてくれないからと元彼のことをひそかに調べ上げた挙句、彼女を連れてその元彼が住んでいる町に旅行に行くというエピソードでこの物語は始まるのですが、もうこの時点でわたしはかなり不快感をおぼえていました。ここに至るまでのページ数をいま数えてみたのですが、なんとわずか5ページ。このわずかなページ数で「新しい本読むぞー!:と昂ぶっていたわたしの読む気力を根こそぎ奪ってしまうとは何ともおそろしい作品だと身震いしてしまいました。なんだこの男は...。


ところが、ではこういう男性と会ったことがないのかといえば実はそんなことはなくて、実はわたしの身の回りにもこんな人がいたりします。それに気づいたのは100ページほど読み進めてからなのですが、気付いてしまうとまた余計に読みにくくなるというか、その人のことを投影してしまい読むのがさらに億劫になってしまいました...。


決定的に交わらない価値観との遭遇というのは、客観的にみれば経験のひとつとして肥やしくらいにはなりそうなのですが、実のところ自分がその場でかかわるとなるとこれはもう不幸なこととしかわたしには思えないんですよね。
たまに「腹を割って話し合えば分かる」と抜かす人がいるんですが、そういう人に「お互いが分かりあえないことが分かる」くらいまでしか分かりあえない人も世の中にはいるんだということを教えるためにこの本をすすめようと思います。