「カラフル」見たよ


「おめでとうございます、抽選にあたりました!」。突然現れた天使により“ぼく”の魂は、自殺してしまった少年“真”の体にホームステイすることになる。現世に戻る再挑戦のために、真として生活を始めた“ぼく”は、やがて彼が死を選んだわけを知る。最初は気楽なホームステイだったが、真と同じ立場で彼の生活を体験するなかで、“ぼく”はこの再挑戦の本当の意味を考え始める――。直木賞作家・森絵都のベストセラー小説をアニメ映画化。

『カラフル』作品情報 | cinemacafe.net

(注意)
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TOHOシネマズ宇都宮にて。原恵一監督最新作。

森絵都さんの原作をとても忠実に、そしてそこにちょっとだけ映像化ならではの彩りを添えて描かれているとてもすばらしい作品でした。原作が大好きで毎年夏になると繰り返し手に取って読んでいる私も納得せざるを得ないくらい完璧な映画化でした。
映画を観ながら、私が初めてこの原作を読んだときに感じた憤りや悲しさ、嬉しさ、そういったすべての感情が徐々によみがえってきてしまい、まるで未見の作品を読むような気持ちで観ることが出来ました。
また、このこととは矛盾してしまうようですが大好きな作品の映画化ということで原作との違いを確認しがら、そして作品からのメッセージを受け止めながらひとつひとつかみしめるようにスクリーンに見入った2時間でした。


毎日毎日繰り返される日常。その日々を過ごす人にとっては、日常それ自体がとても平凡に見えるし、出てくる人も特に変わり映えしなくて、まるでモノクロ映画を観ているように単調で穏やかに過ぎていくように感じることがあります。わたしの義務教育時代を思い出してみると、太っていることがコンプレックスに感じて周囲に引け目を感じながら生きていたわたしの毎日はまるで書道用紙の上に墨汁で描かれているようなそんな色調で再生されるのです。


そんなわたしも、高校に入ってからは体重が落ちて体型も普通になり、そして仲の良い友達が増えたりしたおかげで本当に毎日楽しくすごしました。その当時のことをふと思い浮かべてみると、それは高校に入る前の時期を思い返したときのようなモノクロの想いでではなく、とてもカラフルな色調の映像で再生されるのです。


往復40km以上の道のりを友達と二人でママチャリで走破して遊びに出かけたり、泊りがけで友達の家に遊びに行ってゲームしながらくだらない話に興じたり、誰かが言い出したくだらないことで盛り上がってしまったせいで徹夜する羽目になったりともう本当に楽しい3年間でした。高校デビューという言葉はまさにわたしのためにあるような言葉でして、中学から高校に入ったときにわたしは一度死んで生まれ変わったと言ってもいいくらい、まったく別の生活を過ごすようになったのです。


でも、冷静に考えると結局はわたしが周囲を見る目が変わったからそう見えただけであって周囲自体は何も誰も変わってないんですよね。モノクロに見える中学時代だって、実際は嬉しいこととか楽しいこととか悲しいこととか怒りたくなるようなこととか、とにかくたくさんの出来事が本当はわたしの周りでは起きていたはずだし、そういったことから目を背けて生きていたのはわたしなのです。
だからひとつだけ言えることがあるとすれば、それは「もし自分自身の今を見かえしてみたときにそれらがモノクロで再生されるのであったとしても、それはただ自分がそう見ているだけであって現実世界がそうだというわけじゃない」ということであり、これだけは決して忘れてはいけないことだと思っています。どんなに辛い時でも、ふと周囲を見回してみれば実はたくさんの素敵なものに支えられていることに気づくこともあるんじゃないかなと思うし、そのことに気付いた瞬間というのはまさにパラダイムシフトともいうべき驚きをともなった感激を味わえることをこの作品を見て知ることができたのです。


世の中にはいろんな人がいて、そしてそれぞれの人たちがいろんなことを考えて悩んで生きています。たとえ今は輝いて見えない人もどこか光ることが出来るときがあるかもしれないし、別に輝くときがなくともその人の放つ色の多様さがこの世界をカラフルに映し出しているのだと思うと、こんなしょうもないわたしでもこれでいいかなと思うし、そして生きることがとても楽になります。
そして、人生どんなに辛いことあったとしても自ら死を選ぶのは違うんじゃないかと感じたし、何があっても生きたい、生きることを選びたいとこの作品を観て心の底から感じました。


原作との違いというか、ニュアンスの違いや描写されなかった点についてはいろいろ思うところがありますが、それらも結局は映像化する上で淘汰されたに過ぎず、映画としての出来に満足した身としてはそのことに不満を感じなかったのが、とにかく素晴らしいことだと思っています。


そうそう。あと声優についてですが、原作を繰り返し読んだ身としてはさすがに多少の違和感を覚えましたが、その違和感も始まって5分くらいでもう全然気にならなくなりました。中でも、母親役を演じていた麻生さんはご自身も言っていたとおり、声が特徴的過ぎてどこまでも麻生さんっぽかったけれど、でも最終的には一番いいキャストだったような気がします。


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