「第9地区」見たよ


南アフリカ上空に突如現われた正体不明の宇宙船。襲いかかることもなく、難民として降り立った“彼ら”と人間の共同生活はそこから始まった。28年後、市民と“彼ら”の争いは絶えず、共同居住区“第9地区”はスラムと化したため、超国家機関・MNUは彼らを強制収容所に移住させる計画を立てる。それが、人類と“彼ら”の歴史を変える大事件の引き金となるとも知らずに…。

『第9地区』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮にて。


ある日ハプネスブルグの上空に突然やってきた正体不明の巨大な宇宙船。
地球みたいな小さな星のひとつやふたつくらいは難なく制圧できそうなほど大きな宇宙船は、見た目の凶悪さとは裏腹にまったく何もしかけてきません。相手からのコンタクトを待ちきれなかった人々が宇宙人とのファーストコンタクトをもくろんで宇宙船へと潜入するとたしかにそこには大量の宇宙人がいたのですが、なんと全員栄養失調になっていたというところから物語は始まります。


圧倒的な科学をもつ宇宙からの来訪者 → 地球を制圧しようとするに違いない、と短絡的な発想をしてしまったのですが、まったくそうなる気配がないどころか栄養失調に陥って息も絶え絶えになっているという意外性にはかなりインパクトを受けました。というか大爆笑してしまったのです。
さらに、自分たちの星に帰ることが出来なくなったこの宇宙人たちは住むところがないので地上で難民として暮らすことになるのですが、この姿はとても文明社会を築いた生物とは思えず、そこそこ知性のあるゴキブリのようにしか見えないのです*1。例えばゴミを漁って食べ物を探したり、好物のネコ缶を盗もうとしたり姿をみていると、とてもあれだけの宇宙船を作った生命体とは思えません。
そうやってハプネスブルグを初めとした世界中の人々、さらには映画を鑑賞しているわれわれに徐々に植えつけられた宇宙人たちを自分たちよりも下に見る心、つまり差別する気持ちの無自覚さと残酷さというものが本作が投げかけるもっとも大きなテーマです。


治安の悪化を理由に第9地区から別の場所へ宇宙人たちを移動させようとする人間たちですが、この時の宇宙人たちに対する応対がとにかくひどい。ある時は暴力を行使し、またある時には暴力をちらつかせながら適当になだめすかせて宇宙人たちに要求を呑むように強いるのです。
ところが、その前段のシーンで宇宙人たちが好き勝手に振舞ったせいで治安が悪化してしまい人々が不安を感じていることがわかっていたために、観ているわたしはこのような宇宙人に対する扱いを特段ひどいことだとは思っていませんでした。人々に対して横暴な振る舞いをしたことで人類が不安を感じたのであれば、その排除は当然の処置であると思ったのです。


ところが、このように常に人間側の視点を追いかけ続けていた私も、ある出来事をきっかけにの視点は一転して宇宙人側にスライドさせられることになります。この切り替え方というか引き込み方はものすごく巧妙で、今まで当然の仕打ちだと思っていた人間の行為が突如唾棄すべきひどい行為に見えてくる瞬間の衝撃というのはなかなか強烈でした。
たしかに「わたしは差別は絶対にしません」といえるほど立派な人間だとは思っていませんでしたが、でもこれほど自然に差別意識をもってしまうような人間だとは思っていなくて、わたしが思い描いていた自分と現実の自分の姿があまりに乖離していることに気付かされてしまい恥ずかしくしょうがありませんでした。


この作品では宇宙人という特殊な例を扱っていたのですが、実は程度の差こそあれ、他人を差別する意識というのは自分が思っているよりもずいぶんあっさりと顔を出すことを思い知らされましたし、実際にわたしは自覚なしにこうやって他人を差別してしまっているんじゃないかと不安に駆られてしまいました。もしそういう意識をもっていたとすれば、最悪ですね....。


うまく言葉にならないラストも含め、非常に心にのしかかる作品でした。おもしろかったです。


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*1:ちなみに劇中でもエビ(Prawn)と揶揄したような呼び方をされていました