「空気人形」見たよ


古びたアパートで持ち主である秀雄(板尾創路)と暮らす空気人形(ペ・ドゥナ)。ある朝、本来持ってはいけない“心”を持ってしまう。秀雄が仕事に出かけると、洋服を着て、靴を履いて、街へと歩き出す。初めて見る外の世界で、いろいろな人間とすれ違い、つながっていく空気人形。ある日、レンタルビデオ店で働く純一(ARATA)と出会い、その店でアルバイトをすることに。密かに純一に想いを抱く空気人形だったが…。

『空気人形』作品情報 | cinemacafe.net

(注意) 作品の内容に触れている部分が多いので、未見の方はご注意ください。


TOHOシネマズ宇都宮にて。


予想していた以上にユニークな作品でした。
前半はおおよそ期待していたとおりの展開でしたが、後半は斜め上をいく展開で度肝を抜かれてしまいました。
作品を観るまでは、この作品をもっとライトな物語になるだろうと予想していて、具体的に書くと、心をもったダッチワイフが人間と恋に落ちる物語。そんなファンタジーのような世界観の甘いストーリーを想像していました。
なぜそのような予想をしてしてたのかというと、予告でARATAを見てぺ・ドゥナが固まるシーンがあったからなのですが、それとは別にもうひとつ理由が思い当たります。


「空気人形」とは趣向はまったく異なるのですが、この作品と同じくダッチワイフを物語の真ん中に据えた作品として昨年末に公開された「ラースと、その彼女」という作品があります。



この作品は、ダッチワイフを恋人だと主張して周囲との対話を拒絶してしまった男性を周囲が暖かく見守って変えていくというお話なのですが非常に心暖まるすばらしい作品です。こんなに褒めていることからも分かるとおり、わたしはこの作品がとても大好きなのですが、そんな思い入れを持ってしまったためにダッチワイフを扱っているというただそれだけの共通点からハートウォームな展開を期待してしまったんじゃないかと思うんですよね。


ところが、たしかに導入部は期待したとおりの展開を見せますし、ぺ・ドゥナの振る舞い・たたずまいはとてもかわいくてホノボノとさせられるのですが、物語の核となる部分は決して期待どおりの甘酸っぱいファンタジーではなく、むしろ苦い現実を切り取って描かれている物語なのです。むせ返るほどの濃度のリアリティで満たされていたのがとても意外でした。


この作品を観ながら「あれ?」と思ったことがありまして、それはこの物語に出てくる人たち全員をとても汚い唾棄すべき人物だと感じていたことです。物言わぬ人形に嘘を交えた愚痴をこぼしてストレス発散している男や、他人の秘密に付け込んで肉体関係を強要する男の存在を汚らわしいと感じる一方で、なぜここまで強烈な不快感をおぼえるのか不思議でした。
このくらいと言っては変ですが、こういった人が世の中にいること自体を知らなかったわけではないし、そういう描写にいちいち怒っていたら映画なんか見てられないとは思いつつ、どうにも登場人物たちへの負の感情は消えることはありませんでした。


観終えてからそう感じた理由について考えてみたのですが、空気人形が外見と同等の大人の女性ではなく、幼児から児童くらいの子どものような存在として描かれていたことに起因しているんじゃないかというのがわたしの答えでした。そんな幼い人間をいいように利用する人間の汚さに幻滅したり、彼女の無垢さとそんな人間たちの汚さを比べてしまったために耐え切れなかったのではないかと思ったわけですが、でもいま改めて考えると本当にそうなのかよく分からないですね...。
ぺ・ドゥナがかわいかったから擁護したかっただけなのかも知れません。



グダグダと書いてしまいましたが、作品の世界観に強烈に惹きつけらる作品でした。
見てはいけないと感じるものほど、惹かれてしまうんですよね。不思議。

[参考]


[追記]
そういえば、2009年11月28日に新文芸坐で是枝監督作品でオールナイトが企画されているようです。
実はこれと「歩いても歩いても」以外は観たことのない作品ばかりなので、興味のある作品がかかりそうだったらこれを観に行ってみようかなと思っています。

「誰も知らない」観てみたいなあ。

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