- 作者: 北尾トロ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/07/01
- メディア: 文庫
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ワイドショーも小説もぶっとぶほどリアルで面白いのがナマの裁判だ。しかもタダで誰でも傍聴できる。殺人、DV、詐欺、強姦…。突っ込みどころ満載の弁明や、外見からは想像できない性癖、傍聴席の女子高生にハッスルする裁判官。「こいつ、絶対やってるよ!」と心の中で叫びつつ足繁く通った傑作裁判傍聴記。
http://www.amazon.co.jp/dp/4167679965
先日読んだ2冊目の方が何気に面白かったので1冊目も読んでみたのですが....。
冒頭の著者が裁判を傍聴し始めた話は「未知の体験に興奮する様子」が伝わってきて、「こういうのいいねえ」なんてニヤニヤしながら読んでいたのですが、読み進めるにどうしてもぬぐいきれないモヤモヤした感情、もっとはっきり言えば不快感が沸いてきて読みたくなくなってしまいました。野次馬根性というか何と言うか...。世間話好きなおばちゃんが噂話に尾ひれを加えてぺらぺらと話し続けられているのを聞かされているような、そんな居たたまれない気分になったのです。
このようにさまざまなことに好奇心をもつことがいいとか悪いとかそういうことを言いたいのではなく、露悪的なほど他人の家庭事情や不幸事に首を突っ込んでは被告や被害者、もしくはその人たちの家族の姿にあれやこれやとつぶやく様子がとにかく気持ち悪いくて、嫌な気分以外何も感じられなくなってしまいまったのです。
いやいやいやいや...。
前回読んだ「裁判長!これで執行猶予は甘くないすか」はこんなふうには感じなかったし、だからこそ同じシリーズであるこの本も読んでみようと思ったわけで、いったいこの本と前回読んだ本で何が違うというのか皆目見当がつきません。
しょうがないので前回読んだ「裁判長!これで執行猶予は甘くないすか」の方にも改めて目を通してみて気付いたのですが、こちらの方が冷静に距離感をもって裁判を傍聴しているような印象を受けます。好奇心をあらわにしているところもあるにはあるのですが、それでもその描写の仕方には節度があるように感じられるのです。傍聴を繰り返したことでもしくは裁判の中身だけではなく裁判と言う枠組みそのものに対する興味も出てきた分、被告や被害者への好奇心が露出しなくなったためかも知れないし、慣れたことで関わり方が相応のところに落ち着いたのかも知れません。最初に読んでた時は全然気付かなかったのですが、こうやって読み比べてみるとまったく違う人が書いているんじゃないかという気にさえなります。
で、本書の内容に戻りますが、傍聴は国民の権利とは言うけれど、さまざまな罪を犯した人が裁かれる場に訪れては「これは面白い」とか「裁判官のやる気がなくてつまらない」などと臆面もなく書いてしまえるその姿勢がどうにもこうにも嫌で嫌でたまりません。著者はライターですから書くのが仕事と言えばそのとおりなんですけどね...。
裁判とはこういうものだということを広く知らしめるという意味では非常に有意義な本なのは間違いありません。たしかにおもしろい話もあるし、自分自身も裁かれる可能性があることを考えれば一度は見ておいた方がいいかもしれないとは思います。
だけど、傍聴ブームというのがあったということをこの本を読んで知ったのですが、この本を読んでそれだけ多くの人が裁判に行って見たいと思う人が多くいたということにはとても驚かされてしまうのです。この本がそうだったように他人の厄介事をのぞいてみたいという人が多いことも驚いたし、実際に行動に移すほどに影響を受けた人が多かったことにもびっくりしました。
とか書きながらも、わたしも「裁判長!これで執行猶予は甘くないすか」を読んで、「裁判員制度が始まる前に裁判に行って見たい」とかほざいてしまったので人のことはあまり言えないのですが、でもわたしは「裁判長!これで執行猶予は甘くないすか」を読んでもった「裁判への興味」と言うのはこの本を読んで一気に縮みきってしまいました。
客観的に見て、こんなことをしている自分は見たくない。