百万円と苦虫女


就職できずにフリーター生活を送る21歳の佐藤鈴子(蒼井優)。親元を離れようと実家を出ることを決意した彼女だったが、友人とのルームシェアを解消されてしまう…。そこで100万円を貯めて、ひとりアルバイトを転々としながら生きていくことを決意する鈴子。海を越え、山を越え、行く先々で誰かに出会っては、その関係から逃げていく中で、少しずつ彼女の中で変化が生じる。鈴子と同じように人と接する方法が分からず、学校でいじめに遭いながらもそれを乗り越えようとする小学生の弟・拓也の存在が、彼女の背中をそっと後押しする。そして鈴子は、ホームセンターのアルバイト先で出会った大学生の中島(森山未來)に、恋をする――。

『百万円と苦虫女』作品情報 | cinemacafe.net

シネセゾン渋谷にて。タナダユキ監督新作。
100万円がたまる毎にあちこちを転々と旅する女の子のロードムービー。見知らぬ土地で生活を始めるドキドキ感や地域が持っている匂いがすごく伝わってきてひじょうによかったです。


100万円を持ってあちこちを転々とすることで、自分と向き合うことを否定し続けた鈴子の気持ちはすごく分かるなと思います。
生きることだけに追われているときって、悩んでいる暇なんてありません。自分自身が何をしたいのかとか、これからどうしようかなという自分と向き合う時間なんてもてないし、目の前にあることをこなしていくことだけでいっぱいいっぱいになります。
私も仕事が本当に忙しくて寝る暇も無かったときがあったのですが、その時はすごく大変でもう嫌になったりするわけですが、一方でやることは明確な上に自分自身がそんな状況にあることに疑問を持つ暇すらなかったので、このままでいいのかとか辞めたいとは考えたこともありませんでした。
その時に分かったのは、人間はある程度余裕がなければ、悩んだり迷ったり考えたりという事すら出来ないんじゃないかなということです。鈴子は自身のことに思いをはせるのが嫌で自ら忙しさに身を投じていたわけですが、行き先不安な現状や自分自身と向き合いたくない気持ちからそのような行動をとってしまうその気持ちにはとても強く共感できました。


それと、いまさら何をですが蒼井優がかわいかったです。
先輩の中島にほれてしまった自分に驚いた鈴子がコインランドリーで「乙女かよ...」とつぶやくシーンや、あちこちを旅していることを「自分探し?」と問う中島に対して、「自分はここにいるし、探したくなくてもいるんだから探す必要はない」と言い切ったときの鈴子の表情がとてもよかったです。
彼女の魅力はこういう野暮ったいかわいさにあるんだよなーと改めて実感しました。個性的でよいと思います。


この終わり方が煮え切らないとか続編があるんじゃないかという話もあるようですが、私は終わりを感じさせないいい終わり方だと感じましたが、でも続編は出ないんじゃないかなと思うのです。この続編は無いんじゃない説は、そもそも続編を作るような監督ではないよなあという単なる思い込みに加えて、今回映画を見た上で感じた感覚的なものだったのですが、その説を後押ししてくれそうな記事を見つけました。

蒼井の可愛らしい衣装もあれば、淡い恋もある。3度目のバイト先の先輩・中島(森山未來)と恋に落ちた鈴子だが、やがて物語はほろ苦いラストへと向かう。監督の前作「赤い文化住宅の初子」も切ないラストシーンが印象に残る映画だが、少女の日常をシビアな視点で描く理由を聞いた。「私自身が若い頃にいい思いをしていないので、嘘は描けないというのはありますね。それに10代後半〜20代で幸せの頂点に達したとしても、あくまでも人生の中の一瞬の出来事にすぎない。人生はそんなに甘くないですよ(笑)。映画は終わっても、彼女たちの人生はその後もずっと続くのだから」

約3年ぶり!待望の蒼井優主演映画「百万円と苦虫女」監督に聞く : 映画ニュース - 映画.com

人生はそんなに甘くないという想いと、映画が終わっても人生は続くことを表現したかったという気持ちが、あの余韻を残した終わりを作り上げたんですね。あの結末はかなり意識的に選ばれたんだなと、改めてそのユニークさが嬉しくなりました。安易にハッピーエンドを目指すよりも明確な意思があってとてもいいなと思います。
自らの体験を原点として、それに対して嘘をつけないという考えもすごくいいなと感じます。


ロードムービーとしてのみりょくも十分だし、何より蒼井優の農作業姿とかホームセンターのバイト姿、海の家で働く姿が見られます。そしてなによりストーリーや作品自体がもつバックグラウンドがとてもおもしろくて本当にみてよかったと感じる作品でした。


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