職場はなぜ壊れるのか

職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理 (ちくま新書)

職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理 (ちくま新書)


ちょっと前に、入社3年以内の離職率がとても高いことを問題視している記事を読みました。この離職率の高い状態を中・高・大卒それぞれの3年以内の離職率を頭文字として七五三現象と呼ぶそうですが、それを単に我慢の不足などといった言葉で置き換えるのはどうも違うような気がしていました。
では何が一番の原因かというとやはり職場環境に何か要因があるのではないかと思っていたのです。
そういった思いを抱きながらも結局その何かが分からずじまいだったのですが、この本の中でその何かの正体が成果主義に代表される不適切な仕組みにあるのではないかと感じ始めました。


著者は実際に産業医をされている方ですので、実際に経験されたり聞いたりした事例を織り交ぜながら、現在多くの会社で取り入れている評価システムの問題点を分かりやすく根気強く書かれています。
この根気強くというのが意外に大事でして、分かったようで分かってない私のような人でもこれだけ繰り返し書かれるとさすがに理解する事が出来るようになります。
日本の風土や気質を考慮すれば、欧米型の成果主義をそのまま持ち込んでもうまくいかないと言う指摘は私にとってもはとても新鮮な言葉に感じられます。年功序列と言えば過去の負の遺産だとばかり思っていましたが、組織を強く長く維持するためには良い方向に作用する側面がある点は理解出来ました。


ここで話を離職率の話に戻しますが、結局新入社員が長く働こうとは思わないのは単に雇用の流動化といった世の流れに即した自然な変化という事のように思われます。流動的な雇用を望んだのは人件費を安く抑えたかったという会社側であり、また成果主義を導入して人材の選別をしようとした会社側です。それを考えると、離職率が高い話を単に我慢が足りないということに置き換えるのはいささか理不尽な話のように思われます。
短期的な成果ばかりが必要とされる評価システムではなく、長期的に見て会社や社会全体によい影響が与えられる仕事が評価されるような仕組みが世の中に広まってくれる事を願います。


新人を居れずに即戦力ばかりを入れてると、いずれ組織全体が老化してしまいます。中国の一人っ子政策を反面教師として、長期的な展望で人を育てられるような余裕が社会全体に出来て欲しいと思います。