姿もよく、仕事もでき、女には一も二もなく優しい。そして、女に関して懲りることを知らず、愛を求め続けた男、ニシノユキヒコ。10年前に恋に落ちたのは人妻の夏美だった。みなみという5歳の娘のいる女性だった。3歳年上の会社の上司・マナミは、ニシノがかつての恋人・カノコと二股に近い関係を持っていると知りながらも彼と関係を結んでしまった…。彼のマンションの隣に住む昴とタマもひょんなことからニシノとつながりをもった。料理教室でニシノに出会った主婦・ササキサユリも彼のとりこになった。彼の周りには魅力的な女性達がいつもいた。そして、ニシノは彼女たちの欲望をみたし、淡いときを過ごすのだが、女性たちは最後には必ず自らニシノのもとを去ってしまう…。
『ニシノユキヒコの恋と冒険』作品情報 | cinemacafe.net
女の子にモテたい
いつからそんなことを考えるになったのかはおぼえていませんが、小学校高学年のころにはそんな願望をもっていたと記憶しています。
ちょっと他の人より体脂肪率が高い以外は何の特徴もなく、他人と競争して勝てるのは「ご飯を食べる早さ」と「食べる量」くらいだったわたしは女子にモテる要素などまったくありませんでした。運動ができるわけでも、頭がいいわけでもなかったですしね。
とにかくバレンタインにチョコをもらったりクラスの女子にちやほやされたりしたかったのですがそんな願いはかなわず、そして人並みにモテたいという願いが叶わないことで自分に自信がもてなくてどんどん卑屈になってモテなくなるという負のループに囚われてしまいました。そんなわけで、女子にモテないどころか話すことすら苦手でして大学に入るまではまともに女子と付き合うこともありませんでした。
そして大学生活。
新しい環境がよかったのか、それともアルバイトや一人暮らしを経てメンタルが鍛えられたからなのか分かりませんが、大学に入ってからは異性と話すことも苦ではなくなりました。もちろんだからといってモテたわけではありませんが、人並みに異性の友だちもできたためか高校生のときほどはモテたいと切実に思うことはなくなりました。
そして20歳くらいのときにバイト先にいた積極的なブスのストーカーに1年以上つきまとわれてからは「誰かに好かれることは一概にいいこととは言えない」という当たり前のことも学びました。それにしてもこの子がほんとひどくて、アルバイト先から尾行されていたり*1、友だちと飲んで「うちでゲームしようぜ!」とうちに帰ったら部屋の前で座って待っていたり*2、ある日アルバイトが終わって家に帰ると毎日アパートのドアにお弁当がぶら下がっていたり*3、部屋に入った瞬間に家の電話が鳴ったり*4、留守電がぜんぶ無言電話で埋まっていたりと、なんかもう思い出して書いてるだけで泣きたくなってきました。
そんなこともあって働きだしてからはそんなにモテたいと思うこともなくなりましたし、そもそも結婚して10年も経つのでいまさらモテたいっていうほどの熱意はありません。嫌われていない程度には好かれていたいなというくらいのささやかなモテ願望です。
本作はそんなわたしとは対照的な「イケメンで女性の扱いもうまいモテモテのニシノさん」が主人公のお話でして、とても興味深く鑑賞しました。ニシノさんはイケメンだからすごくモテるしさらに女性が自身に寄せる好意にすごく敏感で、女性の心を惹きつけてはあっという間に心の隙間に入り込んでセックスしてしまうのですが、いつも最後は女性にフラれてしまうのです。
- 相手が望むものを察知してスッと提示するスマートさ
- どんなことでも相手の意見を頭ごなしに否定しない優しさ
ニシノさんは相手が誰でもあってもすべて等しく優しく接します。
とつぜん変なことを言ったり突拍子もない行動をとっても、それを笑顔で受け止めます。女性が希望を伝えれば大抵のことは叶えてくれるし、さらに女性自身もまだ気付いていないような望みにも気づき救い上げてくれます。
そんな男性からみても完璧の傍らに立っているような彼が最後にはフラれてしまうというのは意外な気もしますが、一方では「誰にでも等しく優しいということは自分を特別扱いしてくれない」「常に他の女性の影が見える」というそれなりに納得できる理由もあります。そして観ながらいちばんつよく感じたのは、彼は女性とのやり取りにおいて何も差し出していないように見えるということです。
以前、「空中キャンプ」さんのところでこんな記事を読んでいたく感心したことがあります。
やはり恋愛においては、自尊心やプライドを賭け金にしなければゲームが開始しないのだと、彼女の告白を読みながらつくづくおもった。それはどんなに美人でも、どれだけお金持ちでも同じことだ。ポケットの中のプライドをいさぎよくテーブルの上に置いて、ことによってはそれがすっかり持っていかれる覚悟をしたところで、ようやくカードが配られる。ゲームの成り行きしだいでは、それが奥菜恵であっても、プライドも自尊心もずたずたにされる。ひょっとしたら、ものすごく傷つけられるかも知れないけれど、それでもあえて自分のいちばん弱い部分を相手にさらけだすところに、恋愛のおもしろさがあるとわたしはおもう。
2008-04-22 - 空中キャンプ
ニシノさんの恋愛にはこういうやりとりが一切見えなかったし、結局は何にも賭けていないようにも感じられます。
このあたりは原作と合わせていずれもうちょっと深堀したいです。
あとこの作品でとても印象的なのは長回しがとても多い点です。
中でもニシノさんのお葬式に向かうために、ニシノさんとみなみちゃんが坂をのぼるシーンがすごくよくて見入ってしまいました。坂の下からのぼりきるまでをひたすら固定した視点で撮り続けるだけなのですが、これがすごくいいんです。
こう感じた理由はまったくわからないのですが、あのシーンがあるのとないのでは大きくこの作品の評価が変わるんじゃないかっていうくらいとても記憶に残るシーンでした。うまく言えないのですがとても好きです。
ちなみに、映画ではニシノさん自身のことはあまり描かれていませんが、原作を読めば彼のバックボーンも書かれていてニシノさんがどんな人なのか?ということがもうちょっと詳しく伝わってきます。映画ではそういったニシノさんの過去をあえて描かずに彼に何も背負わせないことで、すっきりとした構成になっていることがわかりました。
- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/01/31
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わたしは映画を観てから原作を読みましたが、原作でニシノさんの人となりを知ってから映画を観ると物足りなさを感じそうなのでこの順番でよかったです。
@TOHOシネマズ宇都宮で鑑賞
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