吉田岬は、東京でひとり生きてきた焙煎珈琲屋の女主人。幼き頃に生き別れた父を捜して、故郷の能登に戻り、店を開くことに。そこで出会ったのは、隣人のシングルマザーのキャバクラ嬢、山崎絵里子とその子ども達。彼女らとのふれあいの中で、やがて岬は「独りで頑張らなくてもいいんだ」と気づいてゆく…。
『さいはてにて 〜やさしい香りと待ちながら〜』作品情報 | cinemacafe.net
わたしの大好きな映画のひとつに「ツナグ」という作品があります。
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辻村深月さん原作の作品でして、生きている人を死んだ人に一度だけ会わせることができる「ツナグ」と呼ばれる人たちを描いた作品です。
偶然であったそのときに優しい声をかけてくれた芸能人にもう一度会いたいと願った女性や、親友が通学中の事故で死んでしまったその原因がじつは自分にあって相手はそのことを知っていたんじゃないかと不安になってその死んでしまった親友に会おうとした女の子。末期がんに侵された母親に本当のことを告げなかったことが本当に正しかったのかどうかを確認したくて母親に会った男性。
この世にはもういない相手への執着というのは気持ちだけではなかなかぬぐいきることができないんだなということや、死者に会うことが出来たとしてもそれが救いになるのかどうかはその人次第なんだなということをしみじみと感じさせてくれるよい作品でした。ほんとうにおもしろかったのですが、その中のあるエピソードがつよく記憶に残っています。
7年前。プロポーズを快諾してくれた女性が友だちと旅行に行くと言って出て行ったっきり、音信不通になってしまい、その彼女からの連絡を待ち続けている男性のお話です。
周囲の人は「彼女は結婚するのが嫌で逃げたんだろう」など言うのですが、彼女のことをよく知っている男性にしてみればそんなことはないと彼女を信じて待ち続けているのですが、いつの間にか7年という長い長い時間が経ってしまいます。
民法では第30条に「不在者の生死が7年間分明ならざるときは、家庭裁判所は利害関係人の請求により失踪の宣告を爲すことを得る」とあるそうでして、つまり7年間消息不明である人については死んだこととみなすことができるそうです。結婚していたわけでもありませんから7年経っても何かが変わるわけではないのですが、それでも法律的には死んだとみなせるだけの時間が経ってしまったことに男性はショックを受けるのです。
その後、偶然ツナグと出会った男性は「死んだ人と一度だけ会えますよ」という言葉を受けて、失踪した女性に会いたいと告げるのです。
彼は死んでしまった彼女に会いたいと願っていたわけではなく、逆にこの世のどこかで生きていることを願っていました。
もしツナグがその女性をあの世から見つけられなければ彼女は死んでいない、つまり女性がこの世のどこかで生きて幸せになっていることの証左となるわけでそれを期待しての依頼だったのですが残念ながら女性は見つかり、そして彼の面会を受け入れたという連絡を受けるのです。
女性はわけあって偽名を名乗っていて、でも結婚を機にちゃんとしようと田舎に帰ろうとしたその途中で不慮の事故により亡くなってしまっていたのです。偽名を名乗っていたために男性は女性の死を知ることができず、ずっと彼女の帰宅を待っていたという悲しい事実が明らかになるのです。
あまりに悲しい...。
それでも死んだかどうかわからないまま待たされるよりも、こうやって相手の死を知り、それを受け入れるというプロセスを開始できたことがとてもポジティブに描かれていたし、7年前に止まってしまった時計がやっと動き出したことが感じられて、改めて死んでいるかどうか分からない状態で誰かを待つことのつらさを実感できたように感じました。
本作は、両親の離婚で父と離れ離れになってしまった女性が7年前に海で遭難した父を待ち続けるというお話です。
父の残した船小屋をコーヒー屋に改造してそこでいろいろな人と出会う話でもあるのですが、わたしにとっては死んだかどうかわからない人を待ち続ける苦しさを描いた作品だと感じました。日常には嬉しいことも悲しいこともあるのですが、どんなことも大事な人の生死がわからないままだということを忘れさせてくれることはできないなと思いました。
死んだかどうかわからない状態というのは「99%の絶望に1%の希望が混じっているようなもの」であると思うのですが、それは「もう死んでしまった」という100%の絶望よりもつらいものです。その1%のわずかな希望にすがってしまうことが絶望をより深いものにしているし、観ながら上で書いた「ツナグ」の話を思い出して反芻してしまいました。
@宇都宮ヒカリ座で鑑賞
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