「鳥人計画」読んだよ

鳥人計画 (新潮文庫)

鳥人計画 (新潮文庫)

鳥人」として名を馳せ、日本ジャンプ界を担うエース・楡井が毒殺された。捜査が難航する中、警察に届いた一通の手紙。それは楡井のコーチ・峰岸が犯人であることを告げる「密告状」だった。警察に逮捕された峰岸は、留置場の中で推理する。「計画は完璧だった。警察は完全に欺いたつもりだったのに。俺を密告したのは誰なんだ?」警察の捜査と峰岸の推理が進むうちに、恐るべき「計画」の存在が浮かび上がる…。精緻極まる伏線、二転三転する物語。犯人が「密告者=探偵」を推理する、東野ミステリの傑作。

http://www.amazon.co.jp/dp/4043718012

わたしは根っからのめんどくさがり屋なので、スポーツはほとんどやったことがありません。
小学校の時に野球、中高は柔道*1をしていましたが、野球は補欠だったし柔道も黒帯取って満足しちゃったしと、どれも中途半端でした。わたしらしいといえば、わたしらしい。
そんなわけで努力してトップになりたい!と思うほどの熱意はなかったのですが、反面、この熾烈な競争の中でもトップに立てる人にはものすごく憧れる気持ちを抱いていて、一体どのくらいの努力の上にこの結果が成り立っているんだろう...と考えるだけで何だかワクワクしてしまいました。
そしてそれが自分の力量をベースに推し量れるものであればなおさら嬉しくて、例えばわたしがどれだけ打とうとしてもバットにかすりもしなかったピッチャーがあっという間に打ち崩されるのを見たり、柔道の試合で組んだ瞬間にこれは勝てないなと思わされた人が全国大会では10秒と持たずに投げられるのを見たりすると、果たして何をどうすればあんなふうにうまく/強くなれるのかと考えさせられるのです。


努力もせずにそんな事ばかり考えていたのが一番ダメだったような気もするのですが、とにかくそういった「一番になれる人へのあこがれ」は今でも強く持っているし、そういう「強者への憧れ」というのは少なくない人たちが共有できる感情だとわたしは思っています。


本作は東野さんらしい「謎が謎を呼ぶ」的なおもしろミステリーですが、スキーのジャンプ競技という冬の花形スポーツの世界で起こったある出来事を中心にストーリーが繰り広げられています。同じ場所、同じ角度の斜面から飛び出してどれだけ遠くに飛べるのかというとてもシンプルな競技だと思っていましたが、実際はサッツと呼ばれるふみきりや姿勢などたくさんの要素、技術が絡み合っており、予想以上に難しい競技であることが紹介されています。そして、そのトップに立つために行われたある練習が多くの人を巻き込んでその人たちの人生を狂わせていく様子に「才ある人たちの中でさらに秀でることの難しさ」を感じさせるのです。
倫理的、道徳的、法律上という言葉で区切らない限り、どんなことでも「やっていいこと」と「悪いこと」の間に客観的なラインを引くことは出来ません。やる人、もしくはその周囲にいる人たちの倫理や道徳的な感覚、価値観にゆだねられている部分というものが少なからずあるわけですが、多くの人はその一線を越えて何でもアリなところまでは踏み込まずにいるのです。
そこまでして勝ちたくはないという場合があるでしょうし、そうやって手に入れた勝利には価値なんてないと考える場合もあるでしょうが、とにかく何かしらの理由をもってそうせずにいるわけです。


ところが一方ではそういった倫理等には興味をもたずにとにかく勝てるなら何でもやるという人もいるわけです。


どちらが正しくてどちらが間違っているということはなくて、何に価値を置くのかによって違うというだけであり、人と人が競い合うということは競技そのものだけでなく「どうやって勝つのか」という価値観の争いでもあるんですよね。
本作はそういった競技以外の部分の争いにもスポットライトが当てられていてとても面白かったです。


今は週に3,4日走る以外に体を動かしていませんが、久しぶりに競技スポーツをしたいなと思いました。
トップになりたいとまでは思いませんが、適度な努力をしたうえで他人と競い合って勝つ喜びを味わいたいです。

*1:ただし、高校の時は幽霊部員だった