「こちら救命センター ―病棟こぼれ話」読んだよ

こちら救命センター 病棟こぼれ話 (集英社文庫)

こちら救命センター 病棟こぼれ話 (集英社文庫)

「ハイ、救命センターの当直です」「24歳の女性なんですが、眠剤を多量に飲んで意識がないんです」「わかりました。すぐ搬送してください」消防署からの依頼である。救命救急センターの電話は、途切れることがない。死ぬか生きるか24時間態勢で取り組む救命救急センターの若き青年医師と、看護婦、そして患者が織りなす、心温まるドキュメンタリー。

http://www.amazon.co.jp/dp/4087498468

人にはそれぞれの正義がある。医師には医師の、患者には患者の正義がある。
そんなことは当たり前のことかも知れないけど、でも本書を読みながらそのことについて繰り返し繰り返し考えながら読み続けました。


わたしは毎週週刊マガジンを買っているのですが、その中にゴッドハンド輝という漫画があります。
神の手を持つ医師と呼ばれた真東 光介の息子、真東 輝(テル先生)が患者の命を救うために日夜頑張るという物語なのですが、このテル先生は患者を死なせたくないという一心からさまざまな奇跡を起こします。
この作品を象徴しているのが、テル先生は未だに患者の死に立ち会ったことがないということです。つまり誰も死なせない奇跡の医師として彼は描かれているわけです。
連載当初は「こういう先生が居たらいいなあ」なんて思いながら読んでいたのですが、最近ではあまりに徹底して理想を追い過ぎている描写にちょっと怖さを感じていて、ここ一年ほど読むのを敬遠していました。


患者の命を救うことを自らのライフワークとして位置づけているその価値観と、その願いを具現化出来る技術を持ち合わせているテル先生以上に理想の医師などわたしは思いつきません。まさに理想の塊のような存在です。
自分が病にかかった時にこのようなお医者さんが身近にいたとしたらこれほど頼れる存在はいないなと思う一方で、なぜかそのような理想を掲げること自体に対して強烈に抵抗を覚えたのです。なぜこのような感情を持つのか考えてみたのですがよくわかりませんでしたが、本書を読んで「患者にとって都合がいい現実味のない理想」というものにわたしが違和感を覚えているのではないかという気がしました。



本書を患者の視点で読むときつい話ばかりだし、病院にかかりたくないなとも思うのですが*1、でも著者の率直な考えが述べられているために医師側の視点、さらに言い分もまたとてもストレートに伝わってきます。それは患者としての自分にとって都合のよい甘い理想ではなく、これから直面するかも知れない辛い現実はいったいどうなっているのかということも本書は教えてくれます。
本書にはいちいち耳障りがよくないことばかり書かれているけれど、でもどの話にも現実味が感じられて楽しく拝読しました。

*1:そもそも病院に行かずに済むなら誰も行きたくはないでしょうけど