- 作者: 角川歴彦,片方善治
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/03/10
- メディア: 新書
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今や急速なITの進歩と情報環境の変化が「知」のグローバリゼーションを加速する。その集大成「クラウド・コンピューティング」によって、2014年に日本の産業構造は大激変するだろう。その中で「ガンダム」を筆頭に世界で歓迎される日本のポップカルチャーなど、「クール」「かっこいい」と大衆に賞賛されるモノや出来事が社会を変革し始めている。これが“クール革命”だ。本書は情報産業最前線に立つ著者が、激変する現代を“クール革命”の力で生き抜く道を、模索し確信に至った覚醒の書である。
http://www.amazon.co.jp/dp/4047102261
タイトルはいまいちな感じがプンプン漂っていますが、内容については文句なしによかったです。
クラウドとタイトルに入った本は結構はずれが多いような気がしていたのですが、これはもう間違いなくいまもっとも読むべき一冊です。本当に勉強になりました。
本書は角川グループ(出版企業グループ)の経営者である角川歴彦氏の著書ですが、こういう立場にある方ですので書かれている内容はさぞかし出版業界側に偏った意見なのだろうと思いきや、とても冷静に現状を分析をしていることにまず驚かされます。
電子書籍によってその存続が危ぶまれている出版業界らしい切迫した危機感を感じているとしながらも、でもだから絶対に導入は反対だという安易なところに着地するわけではなく、音楽業界の失敗を例に挙げて今後どういった方向に舵を切るべきかという点について深く考察がされていて非常に参考になりました。
本書を読んで感じたのは、既に現在多くの人にとってITが欠かせないものになっていることにも着目した上で、過少でも過大でもない程度の危機感をもって今後について考えていることがとても分かりやすくまとめられていた点です。
特に、日本のメーカーは個々の製品デザインは非常に優れていることを踏まえた上で、現代においてはそれ以上により大きな視野で仕組みをデザインしていくことが望ましいと述べている点については、強い共感と感銘を受けました。
これについてはiTuneとiPodの関係を主従関係がもっともわかりやすいと思うのですが、基本的にはiTuneがあってiPodがあるというのがわたしの理解です。つまり、iTuneという音楽やアプリケーションを管理するためのアプリケーションがまずあって、そこに接続して利用できるデバイスとしてiPodがあるというソフトウェア主導タイプの仕組みであると理解しています。
もし、わたしがこういった仕組みを考えて作るとすれば、まずはハードウェアを最初に設計し、それに音楽を連動できるアプリケーションを設計します。なぜそう考えるのかと考え直してみると、売りたいのはハードウェアだからだと言えます。もっと踏み込んで言えば、お金になるのはハードウェアであり、ソフトウェアはその利用を補助するツールとして無料にせざるを得ないと考えているからです。
だから主はハードウェアであると。
でも実際に使ってみると、Appleの考えの方が正しかったことは2秒でわかります。
そしてこの仕組みだからこそ、サービスを音楽配信から動画配信、動画配信からアプリケーション販売へと拡張できたし、それにあわせたハードウェアも作れたわけです。そしてその利用方法も簡単で便利とくれば、もう流行らない理由がないですよね。
角川氏は日本でもこういったグランドデザインを引けるメーカーが出てこなければ、今後主導権を握ることはできないと言っているのですが、まさにそのとおりです。ただ、日本のメーカーってモノづくりは得意ですが仕組みづくりって苦手なイメージがあるので、そんな役割を期待するのは正直厳しいのかなという気もします。
とはいえ、クラウドの生み出す価値はコストメリットであるという点を看破した上で、そこを活用してビジネスが成り立つインフラを作れなければ生き残りは難しいというのは本当にそのとおりだなと首肯せずにはいられません。
ただ、本書で唯一残念だったのは、最後の最後で国産クラウドの作成(しかも税金を投入して構築することを想定)を提言していた点です。
国外のデータセンターに極秘情報を置きたくないというのはすごくよくわかるのですが、だからといって今から国を挙げてクラウドインフラを作るというのも無駄じゃないかなと思うんですよね。GAEやS3と真っ向からぶつかりあえるくらいのクラウドインフラを作ろうとするのは、正直どうかなと。
モスキート級の選手がヘビー級の選手と真っ向から殴りあうのが無謀であるように、GoogleやAmazon,Microsoftといったアメリカの企業に規模の経済で競いあうのはあまりに愚かだとわたしは思います。ただでさえ弱い日本が、相手の土俵で戦うこと自体間違ってます。
もしこじんまりとしたものを作ろうというのであればそれによってコストメリットは消え失せてしまいますし、だからといって大規模なものは作って運用するのは上述のとおり無謀そのものです。そのあたりの現実的な落としどころとしては、既存の仕組みを買って国内データセンターに設置するということなんじゃないかなと思うんですよね。
ただ、そういったオチのお粗末さを考慮に入れても、これだけクラウドの現状について知っていて、さらに今後の展望を予測している出版業界の経営者がいることに感動しました。ぜひ日本の出版業界を新しい舞台へ導いて欲しいです。