「キング・オブ・コメディ」見たよ

コメディアンを目指すルパート・パプキンは、有名コメディアン、ジェリー・ラングフォードを熱狂的ファンの群れから救い出し、強引にコネをつける。「今度事務所に自演テープを持って来い」と言われて、有頂天。もうスターになった気になり、昔から好きだった黒人女性リタにも接近するが……。

キング・オブ・コメディ - Wikipedia

先日、午前十時の映画祭で「タクシー・ドライバー」を観たのですが、そのときにラストについての感想をツイートしたところ、同じ監督の作品である「キング・オブ・コメディ」をおすすめしていただいていたので鑑賞しました。



もともと「タクシードライバー」は苦手だったというか、主人公のトラヴィスの思考やら行動パターンがどうにも理解できなくてほとほと困りました。自己顕示欲の強さなのか、それとも単にネジが飛んでるだけなのかわかりませんが、その行動原理がいまひとつつかめなかったんですよね...。
暴発とも言える行動に出る後半というかラストあたりはそこそこおもしろかったのですが、終始いたたまれなさに包まれたというのがわたしの感想でした。なんかやりきれないし切ない。


そんなわけで「タクシードライバー」と双子の関係にあるというところに一抹の不安をおぼえながら鑑賞したのですが、これがとてもおもしろかったです。


物語のフレームワークは「タクシードライバー」とすごく似ていて、世間に認められたいというつよい願いを持ちながらもそれがうまく結実しないことに憤りをおぼえる主人公パプキンのお話なんですが、彼に対しては「タクシードライバー」でトラヴィスに対して抱いたような負の感情はわいてこなかったんですね。
もちろん「こいつ頭おかしいんじゃないの?」と思うことはあったものの、それがトラヴィスに対して抱いた決定的なズレと同じとは思えなかったんですよね。ラングフォードに対する執着の仕方や、好きな女性に対する接し方とかはたしかに「おいおい...」と思わざるを得ないくらいアレなのですが、でもどこか正常である人が常軌を逸しているように振る舞っているようなそんなふうにも見えたんです。


結局、パプキンは犯罪に手を染めることで一度だけテレビに出ることが出来たのですが、放送の最後でパプキンが口にした「ドン底で終わるよりも一夜の王になりたい」という言葉を観た時に、彼は異常者ではないんじゃないかという想いが確信に変わったんですね。彼は自分の置かれている状況も理解していたし、このままでは望むような未来がないこともよくわかっていたんじゃないかなと。


きっとパプキンは、トークで話していたようなひどい家庭に育ったわけではなく、どちらかというと裕福な家庭に育ったのではないかと思っています。それは作中で出てくる彼の住まいがこぎれいなことや母親との接し方などから、彼は大事に育てられた人間なのではないかと感じたのです。なにをしてもほめられて、自分が特別ななにかをもっていることを長く疑うことなく生きてきたのではないかと思うわけです。


パプキンが長く抱いてきた「自分は特別な人間なんだ」という気持ちを信じたいけれど、でも現実では「特別な人間ではない」ということを突きつけられてパプキンは悩んでいたような気がするわけです。「自分が特別である」ことを信じたいがために自身を焚き付けて異様とも思える行動を起こし続けていたけれど、やはりそうではないことに気付く。
平凡であることを認めて日々を平穏に過ごすよりは、一度でいいから特別な舞台に立ちたいと願ったのだと思うと、パプキンのその心境が一気に理解できるし、彼の意見に同意してしまうのです。
平凡であることと向き合うことしかわたしには出来なかったけれど、パプキンはその後の人生で得られるすべてを投げうってたった一度の夢を手に入れるわけです。わたしにはできなかったけれど、あー、そういう踏み込み方ってかっこいいなと思っちゃったんですね。


あらためて「タクシードライバー」について考えてみると、ラストも含めておおよそ同じなんですよね。
だけど、わたしの受け止め方は180度違ってしまった。「タクシードライバー」と「キング・オブ・コメディ」の受け止め方の違いが実はまったくわからないんですが、でも感想はまったく逆になったのはすごく興味深いなと思っています。


というわけで大変おもしろかったので、これからも折を見て繰り返し見てみたい作品です。
これをきっかけに「タクシードライバー」ももう一度見てみたいな。

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