「白夜行」見たよ


質屋の店主が殺された――。複数の容疑者が捜査線上に浮かぶ中、事件はある容疑者の自殺をもって一応の解決を見る。しかし、担当刑事の笹垣だけは腑に落ちず、容疑者の西本雪穂と被害者の息子・桐原亮司の姿が、脳裏に焼きついて離れなかった。雪穂と亮司はやがて大人になるが、彼らの周囲では不可解な事件が…。笹垣は執念深く事件を追うのだが…。累計180万部を突破した東野圭吾のベストセラーを映画化。

『白夜行』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮にて。


原作は4回以上読み直しているくらい好きな作品なのですが、あまりに好き過ぎて過去の映像化作品は観たことがありません。
それは、私の頭の中に描き出された雪穂や桐原が実写で動き出したら....と想像したときに、そのギャップをうまく補完できなかった場合には原作まで嫌いになってしまうんじゃないかという不安を感じているからなんですよね。
そんなわけで正直観ようかどうか迷ったのですが、高良君を桐原役にキャストするという絶妙さに心惹かれて観に行くことにしました。


まず全体の感想ですが、ストーリーは網羅性に主眼をおいて原作をしっかりと踏襲している点がとても印象的でした。
あれだけボリュームのある原作を2時間ちょっとに詰め込むわけにはいきませんので、どこかしら削らないといけないわけですが、その削る部分のチョイスのうまさがかなり際立っていました。
読んでて印象の薄かった部分は削られていましたし、逆に雪穂や桐原の酷薄さに衝撃を受けたシーンについては大抵残されていたので、作品全体をしっかりと網羅しているという印象を受けました。もちろん無くなったり変わってしまっていた部分も結構あったのですが、そういった点についてもおおよそ不満は感じませんでした。


そしてストーリーに関してもう一点付け加えておきたいのは、映画独自の要素として雪穂と桐原の幼少期を具体的に映像化しているシーンがある点です。原作ではその可能性について促されるに過ぎなかった二人の過去を具体的に描いていてその内容を補完してくれた点は、高く評価したいと思います。
ただ、このシーンを入れたことで雪穂のもっとも大きな魅力でもあった計り知れなさが薄れてしまったために、その点をどう受け止めるのかと言う点については賛否が分かれそうです。原作に強い思い入れがある人の中には「過剰な表現」と言い切った人がいましたが、そう思う気持ちもわかるような気がします。


原作を読んでわたしがどうしても分からなかった点の一つに、笹垣が述べていた「桐原と雪穂は相利共生の存在である」という指摘があります。雪穂がのし上がっていくためには桐原が必要な存在だったのは間違いありませんが、では果たして桐原にとって雪穂とは本当に必要だったのかどうか、映画を観終えた今でもその点は疑わしいと感じています。
もちろん命を賭して守りたかったのかも知れませんが、わたしの中ではどうしても桐原が雪穂を必要とした理由がよくわからないんですよね。続編とも言われている「幻夜」の内容まで加味して考慮すればまた話は変わるのですが、どうしてもそこに必然性を感じられないんですよね。
必然性と言うか、桐原が雪穂を助けたいと思う理由かな。
雪穂の過去をあそこまで表現したのであれば、その部分にもう少し踏み込んでくれたら嬉しかったなと感じました。


ひとつだけ不満があるとすれば、作品の中に人間ドラマみたいなものを持ち込んだことかな。
作中(特にラストあたり)、笹垣の桐原に対する発言や行動というのは、この作品が描く「外見やちょっとした付き合いだけでは計り知れない人間が内に秘めた闇の深さ」を台無しにする破壊力があると感じたし、その点は非常に不満をおぼえました。何であんな安っぽいドラマにする必要があったのか、そこだけはとても残念でした。


この映画を観たら原作と幻夜をとおして読みたくなったので、3日かけて読み通しました。
読んでいろいろと思ったことがあったので、それについてはまた後日感想をまとめたいと思います。原作はいい意味で破壊力を秘めた傑作ですね。


白夜行 (集英社文庫)

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幻夜 (集英社文庫)

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