- 作者: 吉本ばなな
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1998/06/01
- メディア: 文庫
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吉本ばななさんは名前だけは前から知ってたのですが、著書を読むのはこれが初めてです。本の内容は知りませんでしたが、どうも名前がびみょうというか読む気にならない名前だと思って読み控えていました。そんな過去を後悔したくなるくらい好きになれそうな作品でした。改めて私がいうまでもありませんが、多くの人に読んで欲しい1冊です。
大事なひとを失ったとき。不意に押し付けられる喪失感は本当にどうしようもなく手ごわくて、何だかわけもなく無力感に襲われます。呼吸をする気も起きなくなるくらい、生きることに前向きになれなくなるのですがそんな心境や状況の描写がすごく伝わってきて同じシーンを繰り返し読み返してしまいました。
例えば、祖母が亡くなった後に祖母と一緒に住んでいた部屋を引き払う準備のためにみかげが家にもどるシーンがあるのですが、ここがすごく印象に残っています。
ある日、まだ残っている荷物整理のために私はもとの部屋に帰った。
ドアを開ける度、ぞっとした。住まなくなってからの、まるで別人の顔をするようになった。
しんと暗く、なにも息づいていない。見慣れていたはずのすべてのものが、まるでそっぽを向いているではないですか。私は、ただいまと言うよりはおじゃましますと告げて抜き足で入りたくなる。
祖母が死んで、この家の時間も死んだ。
私はリアルにそう感じた。もう私には何もできない。出て行っちゃうことの他にはなにひとつ − 思わず、おじいさんの古時計を口ずさんでしまいながら、私は冷蔵庫をみがいていた。
32ページ
人がこの世からいなくなると、いつもその人がいた場所もまた世間から取り残されているような気がしていましたが、本書を読んできっとそれは間違いじゃないんだなという確信のような感覚を感じました。
時空という言葉にあらわされるように、時間の進行から取り残された死者とその人が居た場所は、時間の経過にしたがって生きている人たちとはどんどん距離をとるようになるのです。空間的な距離ではなく、時空間としての距離。言葉にするとうまくまとまりませんが、私の中ではとてもうまくまとまった感があってすごくすっきりとしました。
これはもう一度読まずには居られない作品。あとでまた読みます。