「百日紅〜Miss HOKUSAI〜」見たよ


浮世絵師・お栄は、父であり師匠でもある葛飾北斎とともに絵を描いて暮らしている。雑然とした家に集う善次郎や国直と騒いだり、犬と寝転んだり、離れて暮らす妹・お猶と出かけたりしながら絵師としての人生を謳歌している。今日も江戸では、両国橋や吉原、火事、妖怪騒ぎ、など喜怒哀楽に満ちあふれている。恋に不器用なお栄は、絵に色気がないと言われ落ちこむが、絵を描くことはあきらめない。そして、百日紅が咲く季節が再びやってくる、嵐の予感とともに…。

『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』作品情報 | cinemacafe.net


わたしが一年でもっとも好きな季節はいつだろうかと考えてみると夏かなと言う気がします。

その中でもとくにお盆が大好きで、暑い中をお墓参りに行ったときに吸い込むむせるような草いきれと線香の匂いや、花やお供え物をもって歩く人たちの集団のことを思い出すだけで興奮します。お盆になると死んだ人が帰ってくると教わったのですが、帰ってくるのは死んだ人ばかりではなく生きている人も帰省で帰ってくるのでお盆にしか会えない人と会えるうれしい時期でもあります。

上でも書いたとおりお盆になると死んだ人が帰ってくるとわたしは教わって育ったのですが、生家に住んでいた頃はわりと本気でそのことを信じていました。信じていたというのはなんだか大げさな言い方ですが、つまりはそのことを否定する考えはありませんでした。

祖父が死んだとき、おそらく30年近く前のことですが当時は四十九日までのあいだは大勢の人たちが家にやってきて仏前で雑魚寝するということをしていたのですが、そうやって寝ているときに祖父に足を引っ張られたとか幽霊を見たという人が多くいましたし、わたしも不思議な体験をしました。

こういう話をすると「そういう迷信を信じるタイプだとは思わなかった」と言われますが、やはり土着の風習というのはその場所に行かないと分からないことも多いですし、わたしだってそこに住んでいなければきっと「そんな話は迷信に過ぎない」とばっさり切り捨てていただろうなと思います。

実際に生まれた場所を離れて暮らすようになって20年になりますが、ここに住んでいる限りは幽霊だとか迷信だとかを信じることは決してなさそうです。


本作は浮世絵師の葛飾北斎とその娘が過ごした日常を描いた作品ですが、とてもおもしろかったです。

と言ってもストーリーはおもしろみに欠けるというか、個々のエピソードはとてもよかったのですが、それらがつながりをもって物語に立体感を与えることはなく、点々とただ配置されただけというのがなんとも微妙でした。エピソードそれぞれをつなげて物語にふくらみをもたせる工夫があってもよかったんじゃないかなと思う一方で、つながりをもたない点を描くことで表現されるつまみ食い感といえばよいのかそんな個性も感じられてそれもまた悪くないなと思いました。


それよりも、わたしが本作を高く評価する理由としては「作品の世界観がとにかくすばらしかった」の一言に尽きます。


わたしが幼いころに過ごした場所のような幽霊や迷信が当たり前のように信じられている世界。

そういった科学的な観点からは否定されるその存在を誰もうたがうこともなく、すべての人が自然と受け入れている世界がわたしにはあまりに居心地がよくて観始めてすぐにこの世界観に引き込まれました。


@TOHOシネマズ宇都宮で鑑賞


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