「俺はまだ本気出してないだけ」見たよ


大黒シズオ、41歳。バツイチで子持ち。「本当の自分を探す」と勢いで会社を辞めるも朝からゲームばかり。父親には毎日怒鳴られ、高校生の娘に借金し、バイト先ではミス連発。そんなある日、「とうとう見つけちゃった。俺、マンガ家になるわ」と宣言するのだが…。

『俺はまだ本気出してないだけ』作品情報 | cinemacafe.net


MOVIX宇都宮で「俺はまだ本気出してないだけ」を観てきました。

本作は今年既に監督作品が2作品公開されている福田雄一監督の3作目となる作品ですが、他の2作品「HK/変態仮面」「コドモ警察」のようなくだらなくて笑える作品を観るつもりで劇場に足を運んだらとんでもなく重いものを背負わされるはめになりました...。「ユルく笑える作品が観たい」という期待はばっさりと切り捨てられ、いい年したおっさんがそれまでのキャリアを捨てて自分探しをしようというのはどういうことなのかという現実を見せつけられるというたいへんハートブレイクな内容でした。


才覚のない人間が41歳から新たな道を歩むことは決して楽なことではないというのは誰でも頭では理解できると思います。
この作品はその「高校生の子どもがいる41歳のおっさんがフリーターになったら大変だろう」とぼんやりと想像していたことの大変さを、体感したと言ってもいいレベルではっきりと伝えてくれます。


シズオはバイト先では年下のあんちゃんに店長、店長とバカにしたように呼ばれますし、10歳以上年下の店長に怒られたりもします。

そしてバイトの後輩に誘われて合コンに行けばこれまた年下の女の子に冷たい目で説教されたり、そのくせなぜか年上だということでおごらされたりしますし家に帰ったら帰ったで毎日父親に定職に就けと怒鳴られるのです。さらに一念発起して書き始めた漫画も、何度描いて持ちこんでもボツにされたりと、自分なりにあれこれ考えてがんばってもまったく先が見えないし、もがいてももがいても抜け出せずただ時間だけが過ぎていくだけという深みにはまっている様子がまざまざと描かれているのです。


そしてわたしがこの作品を観て感じた怖さというのは、シズオの置かれている状況のみじめさや大変さばかりではないと思っています。

むしろ一般的な41歳男性がシズオと同じ状況におちいったとしたら、おそらくそのほとんどはこの作品よりも悲惨な物語になるだろうし、それこそ多くの人にとっては正視しがたいような展開になるだろうと思います。逆に言えば、この作品がまだ観ていられるような話におさまっているのはシズオのポジティブな立ち振る舞いだからこそだとも言えるのです。


わたしがこの作品を観て怖いと感じたり傷ついたりするのは「もし自分がシズオと同じ立場になったら...」と想像した瞬間から、この物語よりももっとネガティブな展開を想像するからであり、将来への見通しがまったくないいまの状況を考慮するとその未来が決してただの想像で済む話ではないと感じるからなのです。自分はぜったいにシズオのようにうまくやり過ごすことはできないんですよ...。

シズオはほんとすごいですよ。



あとシズオの娘役を演じた橋本愛がたいへん健気でかわいらしかったのですが、その健気さがまた逆に哀れさを引き立てるというか「こんなにかわいい娘に苦労させやがって...」という気分でいたたまれなくなりました。



こんなかわいい子に苦労させちゃだめですよ、ホント...。
わたしには2人の娘がいますが、こんな苦労させてしまったらと思うといたたまれない気分MAXでブルーになりました。


シズオと自分の性格はまったく違うのですが、それでもこの作品をどの角度から観ても自分の将来とリンクする部分ばかりでしてどうしても楽天的な気分では鑑賞できませんでした。言うなれば「観るだけのつもりでプロレス観戦に行ったら自分がリングの上に引っ張り上げられて戦うはめになってしまった」的なそんな衝撃を受けた作品でした。


笑えるシーンがなかったわけではないし全体として観ればとてもおもしろかった作品だと思うのですが終始気楽には観れない作品でした。


(感想リンク)


公式サイトはこちら