2ちゃんねるにスレを立てた日

最近はほとんど見なくなりましたが、学生の頃、わたしは2ちゃんねるが大好きでした。ちょっと書き込んでみただけなのに罵られたり怒られたりして枕を濡らすことも少なくありませんでしたが、どんな罵詈雑言や悪意ある攻撃にあっても「2ちゃんだからしょうがない」という諦観をみなが共有していたためにそのことに腹を立てる人も多くなく、誰もがすべて自己の責任において発言しているあの場がすごく好きでした。
ただ打たれ弱かったわたしは普段は一発言者としてふるまうことが多かったのですが、でも一度だけスレッドを立てて1000まで消費したことがあります。さっき検索してみたら過去ログも見つかってものすごく懐かしかったのと同時に死ぬほど恥ずかしかったのですが、その当時のことについて思い出しながらまとめたいと思います。


今から9年前の2001年。
当時わたしは大学院に所属しており、毎日CやC++でシミュレーションプログラムやデータ解析プログラムをシコシコ書いたり、修士論文などで使う実験データを取るために遠出したりということをしていました。わたしは内部進学だったので大学4年生の頃からやってることはまったく変わりませんでしたし、そして毎日忙しいながらも楽しく過ごしていました。先輩も先生も同期も後輩もいい人が多かったのでストレスも少なかったですし、本当に伸び伸びとやっていました。


さて。そんな楽しい毎日でしたが、研究室に入ってからの2年間で自分にはとても研究職が務まらないこともとてもよくわかってきていたわたしは修士を取ったら博士課程には進まずに就職しようと心に決めていました。物理に関する才能はもちろんのこと、継続して物理を勉強し続ける努力をすることもわたしには難しいことだと感じていましたし、当時既にマコ*1と同棲していたので早く働いてお金を稼いで結婚したいとも思っていたのです。
そんなわけでM1の冬に就職活動を始めたのですが、昔から田舎志向だったわたしは東京に行くのが怖かったので出来れば都内から外れたところに就職したかったのですが、内定をもらえるところは首都圏ばかり。自分から志望しておいてこんなことを言うのはなんなのですが、「都内にある会社だと朝は通勤ラッシュに巻き込まれるので嫌でござる」と悩んでいたのです。申し込む前に気づけよと思うのですが、当時は既に就職が厳しくて就職氷河期なんて呼ばれていた時代ですのでとりあえず仕事の内容優先で申し込んでいたのです。
そんなある日、宇都宮にある会社((いま働いている会社ですが)から内定が出ましたので、ひとまずここを第一優先に行く会社に決めたことでわたしの就職活動は幕をおろしました。


そんなわけでM2の5月には内定をもらってそこに決めることが出来たので「残る1年は研究に没頭するぞー...」という心境になれたらよかったのですが、内定をもらったらもらったで今度はその会社がどういう会社なのかもっと知りたいと思いはじめたのです。もちろん就職する前には会社について調べたりもしたのですが、所詮学生が独自に調べられる内容なんて対外的に公開している体のいい宣伝用のものしかないわけで、そうじゃなくて会社の雰囲気や残業の有無などもっと生の声が聴きたい、知りたいとつよく思うようになったのです。


当時、就職や就職先に関する情報を気軽に集められる場所と言えば「みんなの就職活動」(いわゆる「みんしゅう」)か2ちゃんねるで聞くの一般的でしたが、わたしはみんしゅうのなれ合った空気が大嫌いでやり取りを読んでるとめまいがしてくるほどでした。
# 具体的なやり取りの違いはこんな感じ↓です

  内定をもらった時につくコメント 最終面接で落ちたときにつくコメント
みんしゅうの場合 おめでとうございます。よかったですね!! 残念でしたね。次がありますよ!!
2ちゃんねるの場合 自慢かよ。死ね!! プwざまあw


そんなわけで消去法で2ちゃんねるで会社の内情を調べてみることにしたのです。


スレ立て自体はまったく難しいことはなくあっさりと終わってしまいましたが、立ったもののさほど書き込みがあるわけでもなく、一向に有益な情報が書き込まれる様子もありません。いま考えると単に「情報くれ」と言ってるだけなんですから当然の状況なわけですが、ものすごく期待していたわたしはその状況にひどく落ち込んでしまったのです。おれってば勝手な奴だぜ...。


そんなこんなで盛り上がりに欠けるまま、数日が過ぎ、特に得るものもないままスレッドが消えるんじゃないかと思っていたのですが、盛り上がらないけれどそこそこ書き込みは続いており、さらにそれに対してわたしがいちいちどうでもいいコメントをつけるものですから気付けば内定者や煽る人たちの書き込みが増え始めたのです。
当初の私のもくろみでは、わたしの立てたスレッドは「会社の内部事情に詳しい人ほいほい」として活躍してくれるはずだったのですが、いつの間にか「面白半分で荒らしに来る人」と「わたしと同じ内定者という立場にいる人」の集まりになってしまいました。人が集まるようになったおかげでいままで知らなかった話も少しは聞けたのですが、基本的には2ちゃんねるらしいグダグダしたやり取りがしばらく続きました。
ただ、最初は何となく面白半分でレスを続けていただけでしたが、徐々にその人たちとの交流が楽しくて楽しくてどんどんはまってしまいました。書き込みすべてにレスをつけては煽られ、その煽りを捌いて煽り返す毎日が続き、気付いたらあっという間に一ヶ月が経っていました。


そんなある日の深夜。
スレッドに開発担当の社員だという方から「社員だけど質問ある?」という書き込みがされたのです。本来であれば、この人こそわたしが当初目的に掲げていた「会社の内情を知りたい」という問いに対する答えを知る人なわけですからかなり丁重に対応をすべきなのですが、もう一ヶ月も2ちゃんねるで煽りあいをして頭がおかしくなっていたわたしには、もはや新手の煽りにしか見えなくなっていました。
そんなヘブン状態のわたしが取った行動は「聞くことなんか何もない」という最低のレスをつけることでして、思い返しても本当にぶん殴りたくなるくらい最悪の対応だったのですが、その社員の人は本当に心の広いいい人でして、怒ることなくいろいろな内情を教えてくれました。そしてその話を聞いてやっと今の会社に入る覚悟ができたのです。


そんなこんなで会社に入る覚悟が決まったのですが、一ヶ月ほど続いたこのスレッドも1000レスで埋まりそうになり、さらにもう少し続けようと2つ目のスレッドを立てたのですが大学内の身内による荒らしにあって結局そのまま自然解散してしまいました。
このスレッドでのやり取りは本当に楽しくて、ここは自分の居場所だと思いこんでいただけに失うのはとてもさみしかったのですが、内定式を前にして同期になる人たちとコミュニケーションが取れたということと内情を知ることができたことでそれなりの満足感もありましたので思い切ってこのスレッドのことは忘れることにしたのです。


そして会社に入り、2ちゃんねるでやり取りをした同期とも会うことが出来ましたが、会う人会う人に「あー、たしかに1っぽいね」と言われたことが納得できませんでしたが、でもわたしの思いつきで立てたスレッドを介して人とつながることができたことがすごくうれしかったことだけは覚えています。それでも、2ちゃんねるというあまり世間体のよくない場で知り合ったということはどうしても周囲には知られたくないという点でみなの意見が一致したので、2ちゃんねるでのことについては口外しないことにしようということになりました。


さて。入社してから2週間ほど経った夜に、会社の寮で歓迎会が開かれました。
みんなかなり大騒ぎをしていたのですが、元々あまり社交的ではないわたしはあまり居心地がよくなくてはじっこの方でビールを飲んでいました。すると、そんなわたしに近づいてきて話しかけてきた人がいました。面識があるわけでもないのになぜかピンポイントでわたしを狙って話しかけてきたことを不審に感じていると、突如その人が「きみ、1でしょ」と言い出したのです。2ちゃんねるでスレッドを立てたことはこれから先の人生ではずっと隠しておこうと思っていた矢先でしたので大層びっくりしたわけですが、聞いてみると実はその人こそ、わたしの立てたスレッドに書き込んでくれた社員の人だったのです。
まさか会えるとは思っていなかったのですが、どうもスレッドの中にわたしの素性を表す情報がいくつかあったらしくそれらをつなぎ合わせて突き止めたようです。当時はなるべく個人情報を出さずに書いていたつもりでしたが、今見てみると丸裸もいいところですよね。。。院卒+研究内容でほぼ特定可能ですよ...。
以前の非礼をお詫びしたり配属に関する話をしたりしたことは覚えていますが、長いこと会うことを諦めていた人に会えたことがうれしくてずいぶんと舞い上がってしまい、酔いつぶれてしまいました。


その方にはその後も本当にさまざまな局面でお世話になりました。もしあのとき2ちゃんねるにスレッドを立てていなかったら、もっと苦労をしていただろうという局面はたくさんあったし、もっと極端なことを言えばもしかしたら今は別の会社で別のことをしていたのかも知れないと思っています。


ずいぶんとまとまらない文章になってしまいましたが、あの当時のスレッドを見返して思ったのはこのスレッドを立ててよかったということと、2ちゃんねるという場に対する感謝です。そしてわたしは8年経った今も全然成長していないということもつくづく思い知らされました(笑)


昔は日々成長のないことが嫌で嫌でしょうがなかったのですが、でも今日はそんな自分でいいやと思えました。

*1: