ナラタージュ

ナラタージュ (角川文庫)

ナラタージュ (角川文庫)

大学2年生の春、泉に高校の演劇部の葉山先生から電話がかかってくる。高校時代、片思いをしていた先生の電話に泉は思わずときめく。だが、用件は後輩のために卒業公演に参加してくれないか、という誘いだった。「それだけですか?」という問いにしばらく間があいた。
「ひさしぶりに君とゆっくり話がしたいと思ったんだ」
高校卒業時に打ち明けられた先生の過去の大きな秘密。抑えなくてはならない気持ちとわかっていながら、一年ぶりに再会し、部活の練習を重ねるうちに先生への想いが募っていく。

不器用だからこそ、ただ純粋で激しく狂おしい恋愛小説。

ナラタージュ 島本 理生:文庫 | KADOKAWA


表紙に惹かれて買ってみたら恋愛小説だったのでちょっとがっかりしたのですが、実際に読んでみたら非常に読みやすい上にわたしの琴線に触れる表現の多いとてもおもしろい作品でして、「がっかり損」としか評しようのないほど作品の世界に引き込まれてしまいました。
ひとつひとつの文章表現がとても繊細かつ丁寧にひとつの世界を紡ぎあげていて、その作り上げられた世界というのはまさに10代後半から20代前半を過ごした大学生の頃にかいでいた空気の匂いとまったく同じなのです。読みながら、その時分に戻ってしまったような錯覚をおぼえてしまうほどのめりこんでしまいました。
この頃の思い出に浸るのが好きな懐古主義人間にはたまらない作品でした。とてもおもしろかったです。


この本を読んでいて感じたのは「弱い人間は弱い人間に惹かれる」のだなということです。


以前、「人は自分にないものを持つ異性に惹かれる」という言葉を聞いたことがあります。
これに該当する例として例えば"背の低い女性は背の高い男性を好きになりやすい"なんていうのもすぐに思いつくわけで、この言葉自体はあながち間違いではないとは思います。ですが、実際には自分には無いなにかを持つ人よりも自分自身に似たものをもつ人を求めることの方が多いのではないと思いますし、その傾向が一番色濃く出るのが上に書いたとおり弱い部分をもつ人間なんじゃないかとわたしは考えるわけです。


なんて、柄にもなくこんなことを延々と考えながら読んでしまいました。
誰が誰を好きだとか、誰と誰が付き合ってるとか別れただとか、学生生活を終えて7年も経つとそういう話にはまったく興味がなくなるし、まして結婚している身としては正直どうでもいいことだとさえ思っていましたが、何だかこういう恋愛のいざこざとかモヤモヤとかドキドキというのも楽しくて悪くないなという気になってきたのでした。