政財界を牛耳る大物・蜷川の孫娘が惨殺された。容疑者は8年前にも少女への暴行殺人事件を起こし逮捕され、出所したばかりの清丸国秀だった。全国に指名手配され、警察による捜査が続くが、行方は分からない。事件の3か月後、大手新聞3紙に「この男を殺してください。清丸国秀。御礼として10億円お支払いします。 蜷川隆興」という前代未聞の全面広告が掲載された。「人間の屑を殺せば、10億円が手に入る…」と日本中が俄かに殺気立つ――。
『藁の楯 わらのたて』作品情報 | cinemacafe.net
TOHOシネマズ宇都宮で観てきました。
孫娘を暴行され殺された資産家が殺人犯を殺したら10億円やるぞと懸賞金をかけたので日本中の人たちが犯人を殺そうとやっきになるけど、犯人が警察に逃げ込んでしまったので警察が犯人の身柄を守ることになったでござるというお話でしたが、テーマそれ自体がたいへん優れていたために最後まで飽きることなく楽しく鑑賞出来ました。
中盤以降の展開はいかがなものかと思わずにはいられないところが多かったのですが、でも全体としてみれば文句なしにおもしろかったです。
本作は大きく二つの軸があって、ひとつは「なぜ何度も同じような犯罪を繰り返すクズのような者を復讐の手から守らなければならないのか?」という社会の構造の在り方を問う視点であり、そしてもうひとつは「犯人を内密に護送しようとしている5人の中に裏切り者がいるんだけどそれが誰だか分からない」というサスペンスとしてのおもしろさを描いた軸で構成されています。
後者については良く出来たサスペンスではあるものの、わりとよくある話なのですごく印象的というわけでもないのですが、前者については市井の人たちがもっていた倫理感や道徳という建前が10億円という大金の前では役に立たない様子が描かれる中で、「そもそも人を殺すような犯罪者を私刑の手から守る必要なんてないんじゃないの」という素朴であるがゆえに重い主張がなされていてそこがすごくおもしろいなと。
どんな事件でも、一度犯罪者というレッテルを張られると、家に中傷のビラが貼られたり嫌がらせ電話がひっきりなしにくるという話を聞いたことがありますが、そういったことを聞くにつけ「犯罪者にはなにを言っても/してもいい」くらいのことを思っている人は少なくない気がします。いくら10億円という大金をもらえるからといっても、そういった差別的な考えがなければ人を殺そうと思いきることはむずかしいでしょうし、数多くの市井の人たちのそういった隠されていた差別的な考え方が大金によって引きずり出されて可視化されたところがこの作品のおもしろさの一因でもあるように思います。
そんなふたつの要素がうまく融合してエンターテイメントとして楽しめるよい作品となっていました。
内容はまったく違いますが、犯罪加害者の家族が誰からも守られずに苦しんでいる状況を描いた「誰も守ってくれない」のことを思い出しながら観ました。犯罪加害者であってもその人権は守られなければならないという原則は多くの人が頭では理解している一方で、犯罪を犯した人やその家族のような反社会的な存在は社会的に罰せられるべきであり、そういう人たちには何をしてもいいんだという思う人がたくさんいることの怖さが伝わってくるところがすごく似ているように感じました。
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