偶然、列車で出会ったアメリカ人のジェシーと、フランス人のセリーヌは、ウィーンの街を“夜明け”まで歩きながら、途切れることなく会話を交わした。そして9年後、作家となったジェシーは、パリの書店でセリーヌと再会。2人はそれぞれに家族や恋人がいたが、会えなかった時間を取り戻すかのように“夕暮れ”まで再び言葉を積み重ねる。そしてさらに9年後。美しいギリシャの街を舞台に、“真夜中”まで飾らぬ思いを語り合い始める2人…。
『ビフォア・ミッドナイト』作品情報 | cinemacafe.net
一昨年「ビフォア・サンライズ」と「ビフォア・サンセット」をDVDで観て以来、ずっと楽しみにしていた続編「ビフォア・ミッドナイト」を見てきました。「ビフォア・ミッドナイト」はジェシーとセリーヌの出会いを描いた「ビフォア・サンライズ」の18年後の様子を描いていて、つまりサンライズの9年後を描いた「ビフォア・サンセット」のさらに9年後を描いた作品です。
未見の方には時系列が分かりにくいので簡単にまとめるとこんな感じになっています。
作品名 | 公開年 | 内容 |
---|---|---|
ビフォア・サンライズ | 1995年 | ジェシーとセリーヌの出会い@ウィーン |
ビフォア・サンセット | 2004年 | ジェシーとセリーヌの再開@パリ |
ビフォア・ミッドナイト | 2013年 | 結婚したジェシーとセリーヌの生活@ギリシャ |
「ビフォア・サンライズ」は、電車の中で偶然居合わせたセリーヌをナンパしたジェシーが、一晩かけてウィーンを歩き回ってワンナイトラブ(死語)に興じて朝になったら再開を約束して別れるというお話。20代前半の若者らしく何も考えずにその場の勢いだけでいろんなことを決めて突っ切ってしまうところがすごく楽しかったし、そんな若い二人が精いっぱいの背伸びをしながら相手の興味をひくために会話をくりひろげる様子が微笑ましくて見ていてニヤニヤしてしまう傑作でした。
そしてその9年後を描いた「ビフォア・サンセット」は、サンライズのラストで再会を誓って別れたものの結局再会出来なかったジェシーとセリーヌがパリで再会を果たして日没までの数時間をともに過ごすというお話。
前作では20代の若さがあふれていた2人も9年経って30代になったわけですが、この変化がものすごいリアルに描かれていてすごいんです。前作では会話は「自分を知ってもらうために自己主張をする」ために行われていたのですが、サンセットではそれとは逆に「自分の現状を悟られることなく相手のことを知るため」に行われます。"相手が自分にまだ気があるのかどうか"とか"恋人や家族はいるのかどうか"など、すごく知りたいんだけど直接聞いてしまうと自分の事も話さなくてはならなくなるので聞きにくいことを確認するための飛び道具として言葉が飛び交います。
その言葉一つで相手とのパワーバランスがどう変わるのかまである程度計算に入れた上で発言するそのしたたかさは、二人が酸いも甘いも経験した大人に成長していることを感じさせてくれてとてもおもしろかったです。
そして3作目となる本作は再会から9年後が舞台なのですが、なんとジェシーとセリーヌは結婚していて双子の女の子がいるのです。
ジェシーたちはバカンスで訪れているギリシャで楽しい時間を過ごしているのですが、日頃からたまっていたちょっとしたフラストレーションがついに爆発して深夜に大ゲンカ!という胸躍るたいへんすばらしい展開が待っています。
上でも書きましたがこのシリーズ一番の魅力はジェシーとセリーヌの会話です。
あまりに自然過ぎてぜんぶアドリブじゃないかと思ってしまうような2人の会話が作品のすべてと言っても過言ではないと思っていて、そんな違和感のない会話を年齢相応に会話の仕方や内容を変化させながら見せてくれるのがすごいなと思うし大好きなんです。
前2作では相手と共に過ごす/過ごした時間が極端に少なかったために、相手に伝えたいこと、相手から聞きたいことがたくさんあってとにかく言葉を重ねていましたが、結婚して生活の基盤をともにして相手の存在が日常になった今作では会話は極端に減ってしまいます。それなりに大きな子どもがいるくらいいっしょに生活しているので、言いたいことは言いつくし、聞きたいことは聞きつくしているわけで当然ですよね。
じゃあ、どういうときに会話が盛り上がるのか?というとケンカするときなんです。
日頃言わずにいる小さな不満や聞きにくくて聞けなかったことを怒りとともに相手にぶつける。そしてそれに感情的に答える。もちろん共通の趣味や話題があってその会話がもりあがることもありますが、ケンカのような激しいやり取りと比べたらやはり会話の勢いはまったく違います。
最後にはジェシーが数年前の浮気まで問い詰められてしまうというシャレにならないところまで発展してしまうのですが、ただ好意を寄せあっていただけの関係だった前2作とは違い、生活基盤を共にしている分、桁違いに重いやりあいになっていて予想外に心にダメージを受けてしまいました。
すごくリアルでよかったのですが、既婚者には笑えない話でしたね...。
このシリーズがすばらしいのは、続編を安易に撮ることをよしとせず、映画の中の時間経過と作品の中の時間経過をきれいにすり合わせている点です。イーサン・ホークとジュリー・デルピー両名は、この作品の中ではつねに実年齢とほぼ同じ年齢の設定を割り当てられていて、それぞれの作品の中で見せる表情から二人の年月の経過を現実のそれと同じであることを感じられてそこがすごくいいなと思いました。
次の作品は9年後だから....熟年離婚?(違)
@フォーラム那須塩原で鑑賞
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