
- 作者: 小倉広
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/05/25
- メディア: 新書
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「まわりの人への任せ方がわからない」「いい仕事があがってこないから任せたくない」「教える時間がないから自分でやる」―。これが「自分でやった方が早い」という病。病が悪化すると、待っているのは“孤独な成功者”姿。「お金はあるが、つねに忙しくて、まわりに人がいない」「仕事の成功を一緒に喜ぶ仲間がいない」。それは本当に「幸せ」なのか?本書ではリーダーシップ研修のプロが、自らの失敗体験を交えながら「本当の任せ方」「人の育て方」を披露。
http://www.amazon.co.jp/dp/4061385186/
本書のタイトルを本屋で見かけた瞬間、あまりにも思い当たる部分がありすぎて思わず「うっ」とうなってしまいました。
わたしは人に仕事を頼むのが苦手で「もうめんどくさいからとりあえず自分でやってしまおう」ということが多いのですが、そんな私がこれを読まずして誰が読むんだ!と勢い込んで読んでみました。
本書はこの手の新書にありがちな釣りタイトルでは決してなく、「自分でやった方が早い」という考えのどこが悪くてどういう人がそう思いがちなのか、そしてどうすれば改善できるのかということがきれいにまとめられたよい本でした。
内容はどれもよかったので、感想を述べるよりも簡単にまとめます。
(まとめ)
- 周りよりも自分の方が仕事が早いから自分でやっちゃう
- 自分でやるのが一番早いと思っている時が人生のピーク
- 部下が育たないのでいつまで経っても一人で仕事を回さないといけない
- それって機会の損失になる可能性があるよね?
- 自分しか出来ないことが増えてしまい、負担が大きくなる一方
- 仮につぶれても替わりとなる人がいない状態になって大変なことに
- 自分でやるのが一番早いと思っている時が人生のピーク
- 誰かにお願いするのが申し訳ないから自分でやっちゃう
- 周りも忙しそうだから振れないな→自分でやる
- そもそも仕事を依頼する==仕事を振るではない
- 周りも忙しそうだから振れないな→自分でやる
- 優秀な部下がいないから任せられないんだよ!
- 集まってくる人は自分と同程度の人ばかりだと思うべし
- つまり周囲のレベルは自分のレベル。自分の方が高いと思うのは間違い。
- 幸せには段階がある
- 「してもらう幸せ」
- 誰かに何かをしてもらうことに幸せを感じる
- 未熟な状態ではこの幸せを求める
- 「自分でできる幸せ」
- 自分で自分のことが出来ることに幸せを感じる
- 自立の第一歩
- 「してもらう幸せ」ほどではないがまだまだ未熟
- 自分でやった方が早いというのはこのレベル
- 「してあげる幸せ」
- 誰かに何かをしてあげることで幸せを感じる
- 最終的に目指すべきはこのレベル
- つまり「自分でできる幸せ」を追い求めている時点でまだまだ人間的に成長できてない
- 「してもらう幸せ」
全部書くと著者に怒られちゃいますね...。
こんなふうにたくさんのことが具体例を交えてまとめられていてとても読みやすいです。
本書が主張したいであろう一番のポイントは、優秀なプレイヤーでいるよりも優秀なマネージャーとして若手の活躍の場を増やしてやれよ!というところでしょうか。結局、自分でやるということはいつまでも自分がプレイヤーとして活躍したいという欲求の表れであるというのはさすがにちょっと首肯できないなと思いましたが、ただ言いたいことはすごくわかるなと感じました。
# いくつか余計なお世話的な内容もありますがw
そして、もうひとつ本書を読んで感心させられたのは、内容そのものもとてもよかったのですがそれ以上に随所に「伝わる工夫」が練り込まれていたところです。
本書のタイトルにあらためて目を向けてみると、「人にお願いするよりも自分で終わらせた方がいいと考えている人は病人だ」という主張であり、つまりそういう考えを持っている人はその考えを正すべきだということを言っているわけです。
ちょっとだけ目をつぶって想像して欲しいのですが、仮に自分がその正すべきだと言われている考えをもっていたとして、果たしてその意見にすなおに耳を傾けたり受け入れたりできるでしょうか?
おそらくよほどその状況から抜け出したいと困りはてている人でなければ、反発をおぼえて耳をふさいでおしまいとなりそうです。
本書はその点がとてもうまく工夫されていて、読み手が著者の主張をすなおに受け入れられる、検討しようと思える内容となっています。頭ごなしに現状を否定するのではなく、いったん受け止めた上でその問題点を指摘して改善案を提示することで読み手に否定的な印象を与えないようになっています。
たまに「正論だから何を言ってもいい」とか「正しいことを言ってるんだから伝え方なんて関係ない」なんて人もいるのですが、わたしに言わせればそんなわけねえだろと。
パンチ力だけでボクシングの強さが決まらないのと同じように、発言の正しさだけが絶対的な価値をうむわけではありません。正しいことを言えばそれでOK!なんてそんなわけもなく、その意図が相手に伝わってはじめて意味をもつわけです。意図が正しく伝わっていない正論なんてなんの価値もありません。言いたいことをただ言うだけで相手に全部伝わると思ったら大間違いだし、たとえ言っていることが正しかったとしても伝わらない以上は「何も言ってないのと同じかそれ以下」の価値しかないんです。
だからこそ、本書のような伝えることをしっかり意識した本を読むとすごく嬉しくなるし、内容の良さとも相まってとてもよい印象を残しました。
タイトルに興味をもてない人も、そういった伝える技術に興味があればぜひ読んで損のない一冊だと思います。