「ヤング≒アダルト」見たよ


ひとり暮らしの狭い部屋で、目覚めるなりペットボトルのコーラをガブ飲みする37歳の女、メイビス・ゲイリー(シャーリーズ・セロン)。愛犬にドッグフードを与え、仕事に取り掛かる彼女は、自称作家、実はゴーストライター。執筆中のヤングアダルトシリーズは、人気が落ちて間もなく終了、新作の予定もない。そんな中、生まれたばかりの赤ん坊の写真が届く。高校時代に付き合っていたバディ・スライド(パトリック・ウィルソン)と、彼の妻ベス(エリザベス・リーサー)の幸せいっぱいの案内状がメイビスを苛立たせた。そこでバディと再び恋におちて、輝かしい青春時代を取り戻そうと考えたのだ。招待されたメイビスは、自信満々でバディの家へと乗り込んでいくのだが──。

『ヤング≒アダルト』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮で観てきました。

共感できる部分もそうでない部分も含め、リアリティが感じられるようしっかりと地に足を付けて描かれていると感じる作品でした。内容の好き嫌いははっきりと別れそうですが、出来のよさについては否が応にも認めざるを得ないといった印象を受けました。


本作の主人公エイビスは、元彼から子どもが生まれたという写真付きのメールをもらったことに心をささくれさせて「彼の心を自分に引き戻して青春時代を取り戻そう!」と発奮するわけですが、もうこの時点で既にここから先の展開に暗雲が立ち込めはじめます。

だって、仲が悪かったとかぜんぜん話したことがないという相手ならいざ知らず、仲が良かった友だちに子どもが出来た!と聞いたときに、おめでとうと思うより先に奪ってやると思う時点でなんかもうここから先の展開は推して知るべしみたいな状況になっちゃうわけで*1


その予想は大方はずれることは無く、自己顕示欲でいっぱいのエイビスの行動は見ていて痛々しくて直視できないシーンがくりかえし映し出されます。子どもの誕生を祝う場なのに過剰なおしゃれをして目立とうとしたり、バーでベスたちのバンドが演奏して注目をあびていると途端におもしろくなさそうな顔をしたりとなんかもう自分がいちばん目立っていなければ嫌でしょうがないのがありありと伝わってくるんですよね。

しかも周囲にもそんな自己中な行動や考えを気取られたり煩わしく思われたりしているのに、なにくわぬ顔で行動している様子を見せられると観ているこちらがいたたまれなくて恥ずかしくなってくるのです。


彼女は10代、20代の若かりし頃に周囲からちやほやされていたときのことが忘れられないのか、もしくはその当時に培われた価値観がぬぐいきれないのかは分かりませんが「昔と変わらないきれいな自分」をいまでもみんな承認してくれると信じているのか、もしくは信じ込もうとしているのです。

その過去へのしがみつき方があまりに露骨で共感できないものの、でもまったく理解できなくもないあたりがすごくうまいなと感じました。


さて。
この作品のエイビスの例はたしかに極端ですが、でも実は若いことや若さに過大とも言えるほどの価値を見出している人って実は少なくないんじゃないかとわたしは思っていて、これは観測範囲の問題なのかも知れませんが、世間一般的には年を取ることを肯定的に受け止めている人ってあまり多くないように感じます。


例えば「昔と変わってないね」「まだまだ若くみえる」ということを褒め言葉として使う人は少なからずいて、わたし自身、ひさしぶりに会った人からそんなふうに言われることはままあります。思うに、そういった言葉をかけてくる人というのはおそらく自分がそんなふうに言われたらうれしいから言っているんじゃないかと思っています。

ただ、言われたわたしにはとってみれば「昔と変わってないね」「まだまだ若くみえる」というのは、わかりやすく極端に表現すれば「何にも成長していない」とか「まだまだ子どもっぽい」と言われているのとなんら変わらない言葉でして、付きあいの長い信頼ある相手から言われるならまだしも、それほど仲の良い人に言われたらなんとなくバカにされているような気になることもあります。

もちろん言っている本人に悪意が無いのはわかるのでそのことで怒ったりはしないのですが、でも悪意が無いからこそ言い返すことも出来なくてそれがまたしんどいなと思ったりします。


話が少しずれてしまいましたが、エイビスはたしかにやり過ぎな感はあったけど、方向性がずれているというわけではなくて誰もがわかるなと思える方向にとがっているだけなんですよね。そのせいで、エイビスの気持ちが何となく理解できるような気がしていたたまれなさが倍増したような気がします。


ただ、話が進むにつれてエイビスの発言や行動はある種ホラーのそれと大差が無くなっていたようにも感じられて、庭でパーティするシーンのあたりは、痛々しいを超えて正直観てて怖いなとすら感じました。


あと、ラストの展開はなにげに衝撃的でして、一度は「自分はこのままじゃダメだ」と反省したエイビスが、「そのままのあなたでいいじゃない」という言葉をかけてもらったことで、再度自分は自分のままでいいというところに戻って着地するわけです。


結局、公私に渡っていろいろとうまくいかなくなっていたエイビスが欲しかったのはいまの自分をすべて肯定して承認してくれる人であって別にバディじゃなくてもよかったのか...とか、人間なんてそう簡単には変われないんだとか思うところがたくさん出てきて、観終えてからも考えこんでしまいました。



(お奨めのエントリー)


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*1:ただ、このエイビスが抱いた感情には相応の理由があることが最後の方ではっきりすると見方はガラリと変わるのですがそれについては後述します