「麒麟の翼〜劇場版・新参者〜」見たよ


東京・日本橋で男性が殺害された。被害者は、胸を刺されたまま8分間も歩き続けた後に、翼のある麒麟像の下で力尽きた。彼は何のために助けも求めず、どこへ向かおうとしていたのか。一方、容疑者の男は、現場から逃亡する際、車に轢かれて意識不明となった。彼が事件直前にとった不可解な行動とは…? そして報せを聞いた男の恋人は、彼の無実を訴えるのだが…。東野圭吾の大ヒットミステリー「加賀恭一郎シリーズ」の中でも最高傑作との呼び声が高い「麒麟の翼」を映画化。

『麒麟の翼〜劇場版・新参者〜』作品情報 | cinemacafe.net

MOVIX宇都宮で観てきました。

加賀恭一郎シリーズは何作か読んだことはありますが、本作の原作は未読でさらにドラマも未見の状態で鑑賞してきました。基本的に原作やドラマの知識は本作を楽しむうえでは必須ではなく、知っていればなお楽しめる的な追加要素として味わえるようになっていて、原作もドラマも知らない人にも十分楽しめる作品でした。


本作を観てつよく感銘を受けたのは、映画の中に東野さんのテキストらしさが色濃く反映されていた点です。
ストーリーや物語の構成が原作らしさを内包していると言っても、元が同じものなのだから当然だと思われる方もいるかも知れませんが、通常は表現手段が文字から映像に置き換わることで原作の文章からにじみ出ていたエッセンスはスッと抜け落ちてしまいがちです。

ところが、本作からは東野さんの著書を読んでいるときにわきあがってくる感覚が再現される匂いがしっかりと練り込まれていて、そういったものをはっきりと感じられたのがおもしろいと感じました。


観終えて感じたのは、「人生でもっとも不幸なのは、悲しいことが起こることではなく、人生をもう一度やり直すことができないことに絶望することなんだな」ということ。


わたしたちは生まれてから何度か人生を新たにスタートする機会というのが与えられています。
たとえば小学校や中学校に入ったときや遠くへ引っ越したとき。あとは高校に入ったときや大学に入ったときにも人間関係や生活が大きく変化します。そして特に大きいのは働き始めたり、結婚したり、子どもが生まれたりしたときなんかも人生におけるあらたな生活のスタートだと言えると思います。


そういった新たな生活は慣れないことが多くて大変ですが、一方ではいままでのすべてをリセットするよい機会でもあります。たとえば日常に嫌なことがあったり苦手な人がいた場合、少しずつそれを解消することはなかなかできません。しがらみやら周囲との関係、そういったことが劇的な変化を妨げるのです。
そんなときでも、つながりすべてを捨てて新しい生活を始めることができるのであれば一気に悩みが解消できるのです。


だから、いまがどんなに辛い状況にあって生きることに前向きになれないときでも、近い将来この生活から逃れて一からやり直せるんだと信じられたら人って幸せに生きられるんじゃないかなと思うんですよね。そして逆にそういった展望が一切もてない、つまりは人生がもうやり直せないと知ったときに、人はそのことに絶望して生きることを放棄しちゃうんだなとこの作品を観ながら感じました。


物語としてはすごく悲しくてやりきれない話でしたが、最後には温かい気持ちが残るすてきな作品でした。
おもしろかった!


公式サイトはこちら