「ヒミズ」見たよ


“普通の人生”を望む男子中学生の住田祐一(染谷将太)。愛する人と守り守られ生きることを望む茶沢景子(二階堂ふみ)。しかし、ある事件を機に祐一は心に深い闇を抱え、2人の生活は“普通”とは程遠いものに一変し…。人間の心の奥に隠れた闇を浮き彫りにした、残酷な青春物語。2002年まで「ヤングマガジン」(講談社刊)で連載され大人気を博した古谷実の同名コミックスを映画化。過激な暴力描写で世の中を震撼させてきた園子温がメガホンを握る。

『ヒミズ』作品情報 | cinemacafe.net

(注意)
作品の内容および結末にふれている部分があるので、未見の方はご注意ください


TOHOシネマズ宇都宮で観てきました。


わたしにしてはめずらしく原作を読んでから鑑賞しましたが、その影響で原作との違いがあれこれ気になってしまいました。そのためどうしても映画単体としての評価ではなく、原作から変更された点やそれが作品全体に与えた影響やその結果受けた印象の変化を含んだかたちで評価せざるを得ないんですよね...。

映画は映画として評価したかったので、先に原作に手を出してしまったことを観ながら後悔しちゃいました。


さて。
まずは作品全体に対する印象についてですが、果てしなくこの世に絶望している中学生から見たほの暗くて救いのない世界がとてもよく描かれていてよかったです。


ただ、原作に比べるとその絶望度はかなりあっさりとしていて原作を水割りしたようなそんなさっぱりとして口当たりとなっていました。特にそれが顕著にあらわれていたのはラストシーンでして、住田の自殺という圧倒的な絶望を突きつけてガツンと殴りつけるようにして終わった原作に比べると、住田が生きることを選んで希望を残してみえた映画版のラストはかなり後味はよくなっていました。


そんなわけで原作からの変更点は多々ありますが、個人的に「おっ!」と思ったのは原作ではほぼノータッチだった茶沢さんの家庭事情を描いていた点です。
もともと、原作では茶沢さんの家庭のことは一切描かれていませんが、住田に対する態度から推測するかぎりかなり普通の家庭なんだろうなということを想起させられたのです。ところが、本作で描かれる茶沢さんの家庭は父親の浮気が原因なのかボロボロなのです。茶沢さんをいらない子だと罵り、彼女が死ぬためのデス・バイ・ハンギングを少しずつ作り上げているという異常さなのです。
こええーーーーー。

原作の茶沢さんは"普通でありたいと願う普通ではない住田に憧れる普通の(というにはちょっと変わり者だけど)女の子"という印象を受けていて、茶沢さんが住田に惹かれる理由は自分にはないものをもつ異質なものへの憧れだと感じていました。ところが映画ではそういう異質なものへの憧れではなくてむしろ共感に近いあこがれかなという気がしました。


そしてもうひとつの大きな変更は、住田が茶沢さんに対して平気で暴力をふるうキャラクターに成り下がっていたことなんですよね。こちらは正直かなり納得のできない変更でした。

「親はクズだけど、その子どもだからといって自分は決してクズではない」とかたくなに信じる住田が、茶沢さんにあんな簡単に暴力をふるうのはおかしいんですよ。 普通の生活、普通の人生にあこがれてその道から決して踏み外さないようにつよくひっそりと生きようとしていた住田が、自身がクズと断ずる暴力を行使するような輩であることを容認できるはずがないと思うんですよね。


そんなわけで茶沢さんと住田の原作・映画版のキャラクターの違いはクリティカルに違っていて、その差があのラストの違いを生み出す源泉となっているような気がしました。

だから、観終えてすぐの頃は「原作と全然違うし、原作の主題が変わってる...」とすごく残念な気分になっているのですが、でも実はむしろ積極的に主題・結末を変えるつもりで住田と茶沢さんのキャラまで変えていたんじゃないかなという気がしたのでした。


個人的には原作の方が好きだけど、まったく別物であると思えば映画は映画でよかったような気がします。




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