「おすすめの本」

はてなダイアリー今週のお題「おすすめの本」です。
昔、似たようなお題で書いたことあったなあ...と思ったので探してみたら「心に残った本」というお題でした。ちょっと違うのか...。ちなみにその時に挙げたのは遠藤周作の「海と毒薬」でした。


さて。
今回は「おすすめの本」というお題ですが、まっさきに思いついたのは宮本輝の「流転の海」シリーズです。これは高校生の頃から毎年夏休みになると読み返し続けているシリーズでして、これほど何度も読み返した本は無いくらい大好きです。読み始めた当初はまだ一巻しか出ていませんでしたが、いまは五巻まで出ていて物語は続いています。
このシリーズについては以前エントリーを起こしたものがあるので、そちらをベースに書き直して再掲します。


初めてこの本を手にしたのは、私が高校3年生の夏休みでした。
当時週刊マガジンで連載していた「Boys Be」によると、高校生活最後の夏休みというとウヒヒな思い出作りにいそしむものらしいのですが、もちろん私にはそんな楽しい思い出など特になく、それまでの夏休みと何ら変わらない平凡な50日を過ごしました。
そんな私のささやかな楽しみといえば、家から歩いて10分ほど行ったところにある突堤に本を持っていき、テトラポッドの上で寝転びながらその本を読むことでした。潮の匂いをかぎながら、波の音を聞きながら本を読むのがとても好きでした。晴れた日には、近くの本屋で適当な文庫本を買っては海へと足を運びました。本を読んで日焼けし過ぎたのは後にも先にもこの時だけです。


私が本を買うのはいつも家の前にあるそこそこ大きめの本屋と決まっていました*1
当時遠藤周作三浦綾子が好きだったので、本屋で最初に行くのは新潮文庫のコーナーというのがお決まりコースでした。いつもであれば背面の紹介文を読んで買う本を決めていたのですが、不意に「200ページくらいの本だとすぐに読み終わってしまうのでちょっと厚めの本を買おう」と思い立って手にしたのがこの「流転の海」でした。中身ではなく厚さ。そんな適当な理由で手に取ったその本の著者である宮本輝氏の名前は知っていましたが、でもいままで氏の著書は読んだことはなく選んだのはまったくの偶然でした。


その本を買った私はいつもどおり本を手に海へと行って読み始めたのですが、これがあまりに面白くて午前中に読了。続きが読みたくて午後に第二部を買いに本屋へ足を運んだのですが、文庫にはまだなっていなくてその本屋には置いていませんでした...。


その後もその本の続きが読みたくて本屋に行くたびに入っていないかどうかチェックしたのですが、結局第二部に出会えたのは大学に入学してからでした。その後、発行年数を調べた限りではおおよそ5年に1冊ペースで文庫化されているというのがわかったために、きたる5年後に備えるべく毎年一度はこのシリーズを通読するという習慣が出来たのです。高校3年生の頃からなのでもう今年で15年目になります。


それにしても5年/冊というのはあまりに長いスパンでして、読み始めたのが高校生の時だったのに33歳になった今でも終わっていないというのはこれはすごいことだと思わざるを得ませんそして実際に著者である宮本輝氏もそう思っているらしく、4部の巻末にこのように記されています。

「流転の海」という長すぎる小説を書きだしてちょうど20年が経ち、私は55歳になった。松坂熊吾の年齢に私は近づいている。
 こんなに完結に長期間を要すると知っていたら、最初から読まなかったのだ、これは読者に対する詐欺といわれても致し方なかろうというお叱りの手紙がときどき送られてくる。
 私は返す言葉がなく、ただ頭を下げて謝罪するしかない。


昭和50年代から書かれているようなので実際には30年前から続きが出るのを楽しみにしていた人がいたようです。その人たちに比べれば、私はまだ15年しか待っていませんし、寿命が尽きるのが先かそれとも本が出るのが先かというチキンレース状態にはならずに済みそうです。ただ、私よりも著者の宮本輝氏が大丈夫かどうか最近では不安になっています。
# ちなみに一巻の時点で80歳のじいちゃんから早く終わらせてくれという手紙が来たという話が書いてあってちょっと切なくなりました。



かなり分厚い本が5冊とボリュームはありますがそんなのはまったく気にならないほど、むしろもっと読みたくなること間違いなしです。
本書の主役である熊吾は、異常に頭がきれる上に行動力や度胸もあり、さらには人情味にあふれる人物であるのですが、このように社会的成功を収めるファクターを有する彼が不運によって凋落していく様子をみるにつけ、人生のきまぐれさというか優れていることや勝ち続けるが決してベストではない難しさをひしひしと感じられるのです。彼をとりまく人物もまた魅力あるキャラクターが多くて心惹かれます。
果たして熊吾はどのような終世を迎えるのか。最終巻となる6部が早く出ないかと、今から首を長くして待っています。



流転の海 第1部 (新潮文庫)

流転の海 第1部 (新潮文庫)

流転の海 第2部 地の星 (新潮文庫)

流転の海 第2部 地の星 (新潮文庫)

流転の海 第3部 血脈の火 (新潮文庫)

流転の海 第3部 血脈の火 (新潮文庫)

流転の海 第4部 天の夜曲 (新潮文庫)

流転の海 第4部 天の夜曲 (新潮文庫)

流転の海 第5部 花の回廊 (新潮文庫)

流転の海 第5部 花の回廊 (新潮文庫)

(関連リンク)

*1:それなりの本屋がそこしかなかったという事情もあるのですが