「ラビット・ホラー3D」見たよ


流行の3D映画を鑑賞していた姉と弟。突然スクリーンからウサギのぬいぐるみが飛び出してくる。それを受け取ってしまった弟が、夜な夜な階段の納戸から誘われる不思議な世界――。時が止まったような人気のない巨大な遊園地。そこに現れるウサギの着ぐるみ…まるで“ワンダーランド”のような不思議で楽しい世界だが、不審に思った姉が追っていくと、その世界は姿を変え、恐ろしい場所に。弟を連れ去ろうとする神出鬼没のウサギ男が迫り来る…。

『ラビット・ホラー3D』作品情報 | cinemacafe.net

(注意)
本エントリーでは作品の内容や結末について触れている部分がありますので、未見の方はご注意ください。


TOHOシネマズ宇都宮にて。


ホラー映画は苦手なのでかなり身構えて観に行ったのですが、予想以上に全然怖くなくてむしろ物足りなさを感じるほどあっさりとした作品でした。怖いのを期待して行くとかなり拍子抜けしてしまうかも知れませんが、ストーリーはとてもわたし好みの内容でして非常にグッとくるものでしたし、言葉を介すことなく一切を演じきった満島ひかりの異様さはまさに圧巻でした。特に満島ひかりの演技については「何かになりきって演じる」というのはどういうことなのか?ということについて、なにかを考えずにはいられないほどに惹きつけられてしまいました。
冒頭のウサギの返り血を浴びて茫然としている際の居佇まいの完璧さはもう言葉にならないですね。すばらし過ぎます。


わたしが映画の中でおもしろいと感じたのは以下の2点です。

1. 人魚姫の話との対比

主人公のキリコ(満島ひかり)は、過去のとある出来事をきっかけにまったく言葉を発することが出来なってしまい、日常の中では決して声を出すことはありません。
そのことと、足を得る代わりに声を失った人魚伝説の話が対比して描かれていて、その部分の演出が非常におもしろくてラストでキリコが声を取り戻したときには思わず声を出したくなるくらい感情移入して見入ってしまいました。果たしてキリコは何の代償として声を失ったのか?*1
それが分かった瞬間の気持ちよさというか腑に落ちた感はすごくよかったです。


こういった寓話や童話と関連付けて物語が描かれている作品がわたしはとても好きです。

2. 人の心について描写

「人の心には過去も現在も未来もない」という言葉がある場所で出てくるのですが、この言葉を聞いた時に本作品の演出意図やそこで描かれている世界の姿がくっきりと見えたような気がしました。さまざまな出来事がシームレスにつながっていくのは、時間軸にとらわれない心の中の世界を描いているからなんじゃないかなと思うし、10年前の出来事がいまだにキリコの心を占拠しているということが上で書いた「人の心には過去も現在も未来もない」ということをはっきりと表しているように感じました。

ありきたりですが人の心ってわかんないよなあ...。



ちなみに「3Dでホラー」という作品を観るのは今回がたぶん初めてでしたが*2、日本のホラー映画ってどうしても暗い画面が続きがちなんですが、それに加えて3Dメガネをとおして観ると余計に画面が暗く見えるためにところどころ状況がつかみにくいと感じるシーンが多かったです。思わず何度かメガネをはずして観てしまうときがあるくらいでした。


ただ「じゃあこの作品は3Dじゃなくてもよかったのか?」と考えてみると、やっぱり3Dじゃないとどうにももったいない気がするんですよね。そしてそう感じる最大の理由は「3D映画の中で登場人物が3D映画を観る」というメタな視点を使った演出がすごくおもしろかったからなのです。


「映画の中で映画を観る」という演出はいろんな作品で出てくるシチューエーションでして、稀におもしろい使い方をする作品もあるのですが基本的にはそれ自体に新鮮さを感じることはありません。
ところが、まったく同じシチュエーションを3D作品に持ち込むことで「観ている映像を共有する」だけでなく、「目の前にあるものが飛び出してくる」という状況まで共有することができるのです。そしてそれがどういう効果をもたらすのかというと、座って観ている我々とスクリーンの中の世界を近づけてくれる、つまりスクリーンの中との一体感を強力に演出してくれるのです。
スクリーンの中から飛び出して見えたウサギのぬいぐるみに手を伸ばしたら手に取れてしまった瞬間のザワっとする空気や、スクリーンの中に弟が連れて行かれてしまったとスクリーンの前で大騒ぎしてキチガイ扱いされる満島ひかりの姿から、なかなか言葉で言い表しがたい臨場感が感じられました。これはホントよかったです。


そんなわけで3Dであることを嫌というほど活用していましたので、3D映画に否定的な方にもぜひおすすめしたい作品です。
あと、タイトルにある"ホラー"という単語は見なかったことにして観に行ったほうがよい作品だとも思います。

公式サイトはこちら

*1:私の理解:父親の再婚相手を殺してそのお腹にいた弟・大悟も一緒に殺し、父親を独り占めする権利を得た代わりに言葉を失った。そして最後に言葉を取り戻したのは大悟に父親を返したためであり、その結果人魚同様にキリコは泡となってしまった

*2:ファイナル・デッドサーキットはホラーじゃないよね?