パリ市内の病院に勤務する看護師助手のサミュエルと、出産間近の妻・ナディアは慎ましくも幸せな日々を送っていた。しかし、ある日仕事から帰宅したサミュエルは謎の侵入者に殴られ気を失ってしまう。携帯電話の音で目が覚め、電話に出てみると、妻の泣き声と共に「3時間以内にお前が勤める病院から警察の監視下にある男を連れ出せ。さもなければ妻を殺す」と突然の脅迫の声が…。
『この愛のために撃て』作品情報 | cinemacafe.net
梅田ガーデンシネマにて。
幸せに暮らしていた夫婦がある日突然事件に巻き込まれてしまう様子を描いた作品でしたが、観るものに息をつく暇も与えず、とにかく一気に走り抜けていくようなそんな勢いを感じました。物語はものすごいスピードで動いていき、そしてそれに伴って状況はめまぐるしく変わっていくのですが、それでもたくなみ状況説明によって観ている人を決して置いてけぼりにはしませんでしたし、観る者をグイグイ惹きつけるけん引力もまたすばらしいと感じました。
さて。
「突然家族がさらわれてしまいそれを追いかけていく」というシチュエーションは、さらわれた娘を取り戻すために父親が奮闘する「96時間」という映画のことを思いだしてしまうのですが、「96時間」と本作の決定的な違いは主人公が特別な人間かどうかの違いにあります。
「96時間」の主人公(リーアム・ニーソン)は元CIAの工作員で一般人とはかけ離れたスキルをもっており、娘を取り戻すためには手段を選ばずにさまざまな手を使って犯人を追いつめていきます。あまりに主人公が強すぎて最後はどちらがテロリストだったのかわからないくらい...というのはさすがに言い過ぎかも知れませんが、でもその圧倒的なパワーで悪者たちをねじ伏せる様子はとてもかっこよくて快感をおぼえたのです。
主人公は父親失格と言われ離婚してるんだけど、実は家族を守る父親の姿の理想像ってこれなんじゃないの?というところに共感をおぼえ、そしてそんな人にあこがれてしまいました。
対してこの作品の主人公はそういった特別なスキルは何もなくて、看護師を目指す普通過ぎるくらいに普通の男性です。彼は力ではなく優しさで家族を包み込むような人間であり、争いごとも決して得意ではありません。
だから妻がさらわれたときにもすごいスキルを発揮するわけでもなく、ただただ実直に相手の指示に従ってしまうのです。
「96時間」と「この愛のために撃て」の主人公のどちらがかっこいいかと言われたら、それはもちろん前者だよと1秒と待たずにこたえられるのですが、自分の物語として観た場合にどちらに感情移入できるかと言われるとそれはもう圧倒的に後者の本作なんですよね。
わたしは自分が「自分にもいつか起こるかも知れない物語」として本作を観ていることに途中から気付いたのですが、そういった部分もまたわたしが本作を好きだと感じた一要因なのかも知れません。
上映時間が短く、さらに妻が妊娠しているという状況をうまく使って緊張感を保ち続けたおかげで緊張の糸を切らすことなく最後まで鑑賞することができました。とてもいい作品でした。
(関連リンク)
公式サイトはこちら