「奇跡」見たよ


両親の離婚により、母親と祖父母と鹿児島で暮らす航一(前田航基)は、再び家族みんなで暮らすことを夢見つつも名案が浮かばず悩んでいた。一方、父と弟の(前田旺志郎)が暮らす博多からは航一たちが暮らす鹿児島まで新幹線全線開通することで人々は沸いていた。博多からと鹿児島からそれぞれ発車する2つの新幹線の一番列車が行き交う瞬間に奇跡が起こるとうわさを聞きつけた航一と龍之介は、奇跡を起こすためある計画を立てることに…。

『奇跡』作品情報 | cinemacafe.net

TOHOシネマズ宇都宮にて。是枝監督最新作。


日常を徹底的に子どもたちの視点で切り取っていた点がとても印象的な作品でした。
子どもには子どもなりの考えがあることや、そこに正義があるということ。そして何よりも大人が思うほど子どもは無知でも無邪気でもないということを忘れちゃいけないなと思い知らされました。
すごく笑わされたし、ぼろぼろ泣いちゃうくらい感情がゆさぶられました。ぐうの音も出ないほどの傑作。


話はちょっと飛びますが、わたしには都内に住む2歳年下の弟がひとりいます。
年もそれほど離れていない上に同性であり、かつ、同じ環境で育ったとくればさぞかし似たような感じに育つだろう思いきや、これがまた超似てなくてびっくりします。顔は何とも言えませんが、考え方は全然違います。
例をひとつ挙げると、周りの空気を積極的に読んで「出る杭」にならないよう小さくまとまって生きてるわたしとは違い、弟は常に自分のやりたいことを最優先して突き進んでいきます。そしてそれはわたしから見たら何というか強くてうらやましいなと思ってしまうのです。


弟に対してずっとそんな引け目を感じているせいか、わたしは兄弟や家族をテーマにした作品は観ずにはいられない性質でして、最近だと「ザ・ファイター」や「マイ・ブラザー」がまさにツボにぴったりの作品でした。同じ家庭で育ったはずの兄弟が、それぞれの違いを嫌というほど意識させられるそんな作品をわたしは愛してやみません。
邦画だと「ゆれる」なんてもう最高ですね。


さて。
そんなわけで本作がわたしに響いた要因のひとつとして、航一と龍之介の人物描写がとてもうまかった点が挙げられます。
離れ離れに暮らすことになってしまったことに心を痛めたお兄ちゃんの航一は、一日も早くまたみんなで暮らせることを願って毎日を過ごすのですが、対して弟の龍之介は現実を受け入れてこれからどうやって生きていくのかということと向き合う強さを既に身に付けているのです。


理想にこだわる兄と現実を受け入れる弟。
この対比は本当に痛いほど分かるというか、一発で納得して受け入れざるを得ないリアリティを感じさせる演出に、わたしはもう心底打ちのめされてしまったのです。「ゆれる」を観た時の衝撃再び!みたいなそんな驚きとともに一気に作品の世界に没入させられることになりました。


あとは最初にも書いたとおり、本作は徹底して子ども目線で世界が切り取られながら進んでいくのですが、わたしはそれがすごくよかったなと感じました。観る側に自らの子ども時代をほうふつとさせるような視点のつくり方はとてもよかったし、ただし過剰にオーバーラップさせすぎることなく、あくまで現代を生きる子どもの物語を紡いでいたのは本当によかったです。


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