「クラウドコンピューティング全面適用のインパクト」読んだよ

本書は、静岡大学の「クラウド情報基盤」実践事例を紹介するものである。
近年、急激にその知名度を上昇させているクラウドコンピューティング
しかし、クラウドを全面的に適用して成果を上げている例は驚くほど少ない。
このような流れの中で、静岡大学では2010年3月、クラウドをベースとした、従来とは異なる考え方の情報基盤構築を完了し、実際の教育・研究支援を開始した。
現在、組織を管理する情報システムには、環境負荷の最小化、セキュリティシステムの確立、災害時業務継続性の確立、ITコンプライアンスの遵守、コストの最小化など、幅広い機能、性能が求められている。
しかし、部分的なクラウド採用ではそれらの実現は困難である。それに対し、本書で述べられているように、クラウドを全面的に適用した場合には、それらのニーズのすべてを高い水準で実現できる可能性が高い。
本書の研究・実践事例を少しでも役立てて戴ければ幸いである。

http://www.amazon.co.jp/dp/4903859436

最近、会社でクラウドに関する本をたくさん買ってもらったのでそればかり読んでます。
技術的な側面からクラウドを読み解くものや、ビジネスへの活用を解説するもの、クラウドとは?というそもそも論を展開するものなど、さすがタイムリーなトピックだけあってテーマや切り口を変えてあれこれ語られていて、それらを読むのはなかなか面白いです。


クラウドなんて単なるバズワードだ」
これは去年サンフランシスコに行くまではわたし自身がずっと抱いていた思いなのですが、いまだに同じように思っている人が少なくないと思います。クラウドってWebサービスASPサービスの単なる言い換えにしか過ぎないバズワードであるという認識は一面的には間違っていませんし、わたしもずっとそう思っていました。
ただ、シリコンバレーでいろいろと見て話を聞いて回っているうちに、漠然とそうじゃないじゃないのか?という想いが沸々と湧き上がってきて、さらにこうやって本を読み解くうちにそれは決定的に間違いであることを確信するに至ったのです。
特に技術的な面からシステムの進化の歴史を学んでいくと、クラウドというのは分散処理が発展していく過程に自然に組み込まれているように感じ、そのことにとても感銘を受けました。クラウドバズワードではなく、システム形態の発展プロセスにおいて正当な発展の結果として生まれたものであるということにいまさら気付かされてとても驚いたのです。
考えてみれば、どんなことだって基本的には過去の何かの延長上にあるわけですから当然と言えばそのとおりなのですが、でも繋がっていないと思っていたものが繋がっていた時の感動というのはなかなか言葉にはしがたいドキドキを感じるもので、わたしが無知だったとは言え、気付いた時にはとてもいい気分になりました。


本書は、静岡大学が学内のコンピューティング環境をクラウド化するに至った経緯とその結果をまとめたものですが、読んでとても驚いたのはその思い切りの良さ。こういうクラウド化したという話で多いのは、クラウドへの切り替えを謳いながらも変わるのはごく一部だけで実際には一部は現行のまま使い続けるというケースです。
これは「システムについては変えずに済むところはなるべく変えない」という消極的な判断ではなく、クラウド化することで生み出されるコストメリットを最大限享受するために、システムをどう作り直すべきなのかということをしっかりと考えて検討したからこそ出来たことであり、これについてはいたく感心させられました。
こういう思い切ったことが出来たのは、クラウドを単なるバズワードとしてとらえておらず、その本質である「数の論理でコストメリットを生み出すための仕組み」とつかんでいたからこそ出来たことだと思います。


それともう一つ感じたのは、だからといって何でもかんでもクラウドにもっていくのは止めたという点です。
まずはやりたいことを技術的にどう作れるのかを分析した上で、クラウドクリティカルタイムというシステムごとに要求される要求スピードを基準にどこに配置すべきか(クラウドレイヤーと呼んでいてこれはパブリック/プライベートクラウドのようなものを指します)というのを検討しています。
パブリックかプライベートかという議論において、セキュリティリスク以外にもこういった選別基準を設けるのはすごくいいことだと思うので、これはぜひわたしも参考にしたいと思います。


丸々参考になるというわけではありませんでしたが、考え方など細々した部分ですごく得るものの多い本でした。