「氷菓」/「愚者のエンドロール」/「クドリャフカの順番」/「遠まわりする雛」読んだよ

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。

http://www.amazon.co.jp/dp/4044271011

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

「折木さん、わたしとても気になります」文化祭に出展するクラス製作の自主映画を観て千反田えるが呟いた。その映画のラストでは、廃屋の鍵のかかった密室で少年が腕を切り落とされ死んでいた。誰が彼を殺したのか?その方法は?だが、全てが明かされぬまま映画は尻切れとんぼで終わっていた。続きが気になる千反田は、仲間の折木奉太郎たちと共に結末探しに乗り出した!さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリの傑作。

http://www.amazon.co.jp/dp/404427102X/

クドリャフカの順番 (角川文庫)

クドリャフカの順番 (角川文庫)

待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲―。この事件を解決して古典部知名度を上げよう!目指すは文集の完売だ!! 盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに…。大人気“古典部”シリーズ第3弾。

http://www.amazon.co.jp/dp/4044271038/

遠まわりする雛 (角川文庫)

遠まわりする雛 (角川文庫)

省エネをモットーとする折木奉太郎は“古典部”部員・千反田えるの頼みで、地元の祭事「生き雛まつり」へ参加する。十二単をまとった「生き雛」が町を練り歩くという祭りだが、連絡の手違いで開催が危ぶまれる事態に。千反田の機転で祭事は無事に執り行われたが、その「手違い」が気になる彼女は奉太郎とともに真相を推理する―。あざやかな謎と春に揺れる心がまぶしい表題作ほか“古典部”を過ぎゆく1年を描いた全7編。

http://www.amazon.co.jp/dp/4044271046/


幼い頃。わたしは自分は何でも出来る特別な存在のような気がしていました。
と言ってもヴェルタース オリジナルのCMを観過ぎたわけではなくて、単に周りの人たちがわたしが何をしてもうまく褒めてくれたのでそれを勘違いした増長したんだと思います。



ところが、いくら自分に自信があるといっても、ある一定の年齢になって周囲の同年代の人たちと一緒に過ごす時間が増えていくと、決して自分が一番すぐれているわけではないという現実と向き合あわなければならなくなります。勉強や運動、ゲームや腕力など分野はさまざまですが、自分よりも優れた能力をもつ人に出会うたびに、自分の能力の平凡さを実感し、特別な自分というものが勘違いだったことに気付かされるということを繰り返していました。
もちろん何か得意な分野があってそれについては他の人に負けないというくらいのものがある人もたくさんいると思いますが、でも多くの人がそうであるように、わたしは勉強や運動、趣味などの一切の分野において特別に秀でるところはなかったのです。
唯一、数学だけは小さい頃から大好きで得意であると自負していたのですが、それも大学で数学科の講義を受けてみたら全然ついていけなくてその程度の凡庸なものであることを思い知らされたのも懐かしい思い出です。
数学検定で言えば、準一級くらいがちょうどいい程度のレベルなので、あとは推して知るべしです。


さて。
氷菓」から始まった本シリーズは、とある高校で起こる大小さまざまな事件を一人の高校生が解決していくというお話ですが、これがすごく面白いんです。"事件を解決"と書くと、金田一少年的な高校生探偵モノを思い浮かべる方も多いかも知れませんが決してそうではなく、「やらなくてもいいことはやらない、やらなければいけないことは手短に」という省エネ主義を掲げる高校生が解決するところがとてもユニーク、そして他の登場人物も個性的で魅力的です。


わたしがこの作品を好きな理由について考えてみたのですが、それは主人公の折木奉太郎が自分自身を取り柄のない平凡な人間と評価しているところにあります。さまざまな事件を解決しているのに彼は自分のその能力を過大評価せず、常に平凡であることを念頭においているのです。そんな彼を謙虚だと評価してもよいのかも知れませんが、彼の場合むしろ「冷静かつ客観的に自分の能力を見積もる能力に長けている」といった方が適切であるような気がするのです。


ところが、そんな彼が「愚者のエンドロール」の中で一度だけ、自分にも特別な才があることを信じようとするシーンが出てきます。
その時の彼が抱えた葛藤がとても分かるというか、自分が特別だなんて...という気持ちと、そうであることを信じたい気持ちがまぜこぜになっていることがすごく伝わってきました。
生きていく中で自然と諦めていた「特別な自分」というものが目の前に急に出てきたことへの驚き。それを信じて自尊心を満たしてもよいのか、それともこれは幻のようなもので実は何かの間違いなんじゃないのかという二つの答えの間で右往左往する心境は痛いほどよく分かります。


元々高校と文化系の部活を舞台にしている時点でかなり心惹かれる設定なのですが、登場人物への思い入れも強くもってしまったために今では指折りに大好きな作品・シリーズになりました。早く次の作品が読みたいと心待ちにしています。