ひょんなことから草食恐竜のお母さんに育てられることになった肉食恐竜のハートは、大きくなるにつれて、みんなに怖いと恐れられるようになる。ある日、ハートは生まれたばかりの草食恐竜に出会う。お腹を空かせたハートが「うまそうだな」と話しかけたのをきっかけ、この赤ちゃん恐竜は「ぼく、ウマソウっていうの?」と彼を父と慕うようになってしまう。2頭の間には不思議な愛情が芽生え始め…。
『おまえうまそうだな』作品情報 | cinemacafe.net
MOVIX宇都宮にて。
最近、TLで話題によく上がっていて気になったのでハホ*1を連れて観に行ってきました。これ、ものすごくおもしろかったです。かわいい絵柄なのでついつい気軽に観ていたのですが、とにかくいちいち心を揺さぶるシーンが多くて参ってしまいました。隣にいるハホに気付かれないように涙を乾かすのが大変でした。
ふとしたことから草食恐竜の子どもを育てることになった肉食恐竜の物語。
本作は、前半で草食恐竜に育てられた肉食恐竜のハートが親や兄弟と違うことに悩み、苦しみ、自分の本質と向き合って受け入れるまでを描いていてこれもすごくよかったのですが、それ以上に、ハートが親元を離れてから今度は自分が草食恐竜の父親となってどう立ち振る舞うべきかに悩み、葛藤し、母親がどういう想いで自分を育てたのかに思い至る後半もすごくよかったです。
先天的に能力の違う者同士、それこそ一方がもう一方を食べるという関係にある種族同士がお互いの種の子どもを育てるというのはとても興味深い題材でして、これはいったいどういうことを伝えたいのだろうといろいろと穿ったことを考えたくなります。
そしてこれは前にもちょっと書いたのですが、題材として恐竜を選んでいますが本質的には人間で描いても面白いテーマだと思っています。
人は生まれてきたときは誰もが小さくてか弱い存在なのですが、それでも最初から違うなにかをもっています。体型や顔の違いは当然あるとして、表情が豊かだとかよく寝るとかそんなささやかな違いを誰しももって生まれてくるのです。
そして成長するにつれてそのささやかな違いより大きく、そして多岐に渡っていき大きさも変わっていきます。
たとえ同じ年同じ月の同じ日、そして同じような場所で生まれた人同士が同じような環境で育ったとしても、大人になればまったく異なる趣向をもつ人間となり、互いの利害が敵対することだってあるわけです。
よく「人は赤子として生まれてきたときは真っ白で無垢なんだ」と主張する人もいますが、わたしはそんなふうには全然思えなくて生まれた時点でその人らしさというものを備えているのだと思います。もちろんその後の育つ際の環境の影響も非常に大きいのですが、後天的に変えられる部分があるのと同様に先天的に備わっていていくら頑張っても変わらない要素もすごく大きいのです。そしてその先天的な違いというのはいくらそれが気に入らないからと変えようとしても、絶対に変えられないものなのです。
そして、そういった先天的な違いが時にこの作品の肉食と草食の関係のような弱者と強者のような差を生み出すとすれば、この作品の描いている世界というのはまさに我々の問題としてとらえられるような話だとも考えられるわけです。
あまりえぐい話は書きたくないのでオブラートに包んで申し上げると、他者を傷つけずには自らの欲望を満たせない人というのが世の中には結構いるわけで、そういった人はある意味ではハートと同じ悩みを抱くし、そんな子どもをもった人はハートのお母さんと同じ気持ちを味わっているわけです。
そしてこういった極端なケースにだけ限らなければ、人は誰もが他人を傷つけているしそして他人からも傷つけられているわけで、つまりは誰もが肉食で誰もが草食な状態だということなんです。
何だか何を書きたかったのか分からなくなったけど、でも何ていうかすごいいろんな人の葛藤や辛さが伝わってくる作品だったということはぜひ書いておきたかったのと、じゃあなんでそんなに伝わる作品だったのかと言えばそれはみんながハートであり、ウマソウであり、ハートのお母さんだったからなんだっていうことですよ。
とりあえずこんなにいい映画はそんなにないのでぜひぜひ。
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*1:長女