「BECK」見たよ


普通の高校生だったコユキ佐藤健)がNY帰りの天才ギタリスト南竜介水嶋ヒロ)と出会い、才能溢れるメンバー千葉(桐谷健太)、平(向井理)とサク(中村蒼)とバンド・BECKとしての活動を始める。その中でコユキは天性の才能を開花させていき、ライブ活動を皮切りに、BECKは徐々に頭角を現し始める。しかし、ある事件をきっかけに、音楽メジャーシーンを牛耳るプロデューサーの陰謀に巻き込まれ、数々の試練にみまわれることに…。そんな状況下、飛び込んだロックフェスへの出演依頼。 しかし、それはバンド存続にかかわる条件と引き換えだった――。

『BECK ベック』作品情報 | cinemacafe.net

MOVIX宇都宮にて。

「月刊マガジン」を愛読しているというと、「え?そんな雑誌あるの」と言われることが多くて嫌になります。面白いマンガがたくさん載ってるんだけどなあ...。そんなマイナー雑誌である月刊マガジンの中でも比較的人気を博していた「BECK」が映画化されると聞いてかなり驚きました。いや、たしかに面白いは面白いんですけど映画化されるほどの作品かなというのが率直な感想でした。あと、すごく失礼な話なんですがマンガの映画化って失敗することが多かったためにさほど期待していませんでした。


ところが、この作品の予告映像を初めてみたときに、そんな映画化されることに対する不信感はあっという間に吹っ飛んでしまって「このキャストの完成度はすごい!」と心の底から驚かされました。そして実際に本編を観終わっても最初に予告を見たときの感動と同じくらいのインパクトはしっかりと心の中に残る非常にすばらしい映画化でした。超よかった!


上述のとおり、キャストはこれ以上のキャスティングは考えられないくらいに完璧でして本当によかったのですが、特にサクと真帆についてはよくぞ見つけてきたと拍手したくなるくらい原作の中のキャラクターと合致していました。柔らかい人柄と音楽に対する熱い想いがビンビン伝わってくるサクと、気が強くてまっすぐな性格でキレると英語でまくしたてる真帆の両者はまさに原作の中から引きずり出したとしか思えないほどパーフェクトなキャスティングでした。
演出についてはちょっと古臭さも感じられたせいで音楽のかっこよさとは一線を画したように感じられましたが、これはこれでアリだなと思えなくないし、何よりも作品全体を貫く一体感が感じられたので演出の出来については正直文句を言う気にはなりませんでした。


ただ....。
ただ、ひとつだけどうしても気になったのがコユキの歌はすべて無声だったという点です。これは本当に私の中では致命的な欠点であり、このような選択が為されたこと自体がとても残念でなりません。作品全体をとおしてすべての出来が良過ぎたことで、このコユキの歌声を一度も流さなかったことがあまりに決定的な不完全さを感じさせます。
たしかにコユキの歌声を実写で表現するのは難しかったのかも知れませんが、音楽を題材にした映画でアレをやるのは致命的にアウトだと思うんですよね。特に楽曲そのものについてはあれだけいい音を当てられたんだから、そこにあと一つ歌声というピースを当てはめて欲しかったなと思うわけで。
コユキの歌声を無声にしたのは原作者の強い希望だという話を教えてもらったのですが、なおさら残念だというか、作品のコアとなるそこに口を出すのかと非常にがっかりしました。


当然、聴くだけで誰もが魅了される歌声なんてものが簡単に表現できるわけはないですし、それこそマンガだからこそできた表現ではあると思います。それをあえて実写で表現することは批判の対象になることもよくわかりますし、そういった観点からすればこの表現は妥当と言えるものなのかも知れません。
けど、わたしが観た感想としては実写化することから逃げただけとしか思えないし、それはもう絶望と言っても言い過ぎじゃないと思うんですよね。仮に今回そのシーンをうまく表現できなかったとしてもそれは表現力の問題でしかないわけでそこを改善すればいいとなるわけですが、今回表現すること自体を回避してしまったために今後似たようなシチュエーションが出てきたときには「表現すべきかどうか」というところからの議論が必要となってしまうのです。


そしてどうしても言いたいのは、それでもコユキが歌うシーンが1シーン、2シーンだったらこういう表現でかわすことも許せるのですが、思いつくだけでも4シーンはコユキが歌うシーンがあるわけでそれを全部このやり方で逃げてしまったのがどうしても嫌なんですよ。ここまで繰り返されると、せめて最後くらいは歌声が聴けるんじゃないかと期待してしまったのですが、その淡い期待もあっという間に泡と消えてしまいました...。
繰り返しになりますが、1回2回だったら分かるんですよ。
「一回だけやらせて!」と言われてついつい...っていうのはしょうがないですが、それが四回も繰り返されたらさすがにそれはおかしいだろ?と思うわけで、わたしも一体何を書きたいのかさっぱり分からなくなってきたのですが、そのくらいもうどうしていいのか分からない感情に包まれているんですよね。


全体として観れば二重丸を付けたいくらいいい作品でしたが、コユキの歌声という大事なピースが抜けた状態では決して完成品とは言えないと思うし、そう考えるともろ手を上げて傑作だと言えないのがとても辛いです。
とりあえず一つ言えるのは忽那汐里が超かわいかったということと、水嶋ヒロ忽那汐里の英語はさすがにナチュラルで、両者の英語力もまたキャスティングの成功に一役買っていたなと感じたことです。


いい作品なだけに大事な部分が欠落していることに対する無念さも余計に強く感じてしまいます。
でもホントおもしろかった。それだけは間違いありません。


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