「使命と魂のリミット」読んだよ

使命と魂のリミット (角川文庫)

使命と魂のリミット (角川文庫)

心臓外科医を目指す夕紀は、誰にも言えないある目的を胸に秘めていた。その目的を果たすべき日に、手術室を前代未聞の危機が襲う。あの日、手術室で何があったのか? 今日、何が起きるのか? 心の限界に挑む医学サスペンス。

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決して言葉を軽んじるわけではありませんが、言葉だけでは他人の気持ちや信念は変えられないとわたしは思っています。半分詐欺師みたいに口達者な人もいるでしょうが、そういう人でも言葉だけでは相手の信念や価値観を変えたり、心を動かすことは不可能だと思うし、つまりは決して考えの根底は変えられないと思うのです。
もし言葉だけで変えられたという人がいたとすれば、それは元々その人がそう変わりたいと思っていたところを言葉で後押しされただけであって、言葉が変えたわけではないんですよね。時間が経てばおのずと変わっていたであろうものをちょっと早めたくらいの効果しかしてないのです。
言い方は人それぞれでしょうが、基本的に耳触りのいいこと自体は誰でも言えることであって、その発した言葉が発した本人が本心から述べたものなのか、単に自分に取り入ろうと発したものなのかわからないんですよね。もちろん言葉以外の情報と合わせてその本気度を測ることはできますが、でもそれだってその裏に何かあると疑ってしまえば結局信じることなんて到底できないわけで。


では本当に他者の気持ちを変えられるのが何か、言い換えればその人の本心であると確信させることが出来る方法が何かと言えば、やはり行動している姿を見せることだろうとわたしは思っています。
まっすぐに向き合っている姿、目標を達成するために努力する姿。そういった「言葉を裏付ける行動」や、もしくは「行動自体」によって、いかに本心からそう思っているのかということを見せることで初めて相手にその思いを伝えることが出来ると思うし、逆にそれ以外では本当の意味で本気を伝える方法はないと信じています。


本作は父を心臓手術で亡くした女性が、父の死が執刀医の意図的なミスによるものではないかと疑い、その事実を確かめるために医師になって真実を探るという気の長いお話なのですが、執刀した医師の本心と父の死の真実を知ることになるラストまでのものすごい緊張感と疾走感に追い立てられるように一気に読み終えました。これを面白いというのもなんだか不謹慎なのですが、人の本心を知ることや伝えることがどれだけ難しく大変なのかということをしみじみと感じましたし、自らの本当の気持ちを伝えるためには時として命をかけるくらい本気にならなければいけないということが強く心に残りました。


わたしは口下手なのでなかなか思いを伝えられなくてもどかしいときもありますが、せめて背中で語れる人になろうと思います。